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広島 ~世武裕子さんと、文化・歴史に心動かされる場所へ~:(第3回)「#エモ街」

懐かしくて新しい“エモ”な街を巡る連載「#エモ街」。3回目となる今回は、G7サミットの開催で世界中から注目を集めたばかりの広島市を巡ります。


広島市の歴史とは?どんな場所?

広島市の歴史は、戦国武将の毛利元就もうりもとなりが現在も広島市街地を流れる太田川の河口付近に生まれたデルタ(三角州)の開拓を行い、孫の輝元てるもとがこの地に城と城下町を築いたことから始まります。職人や商人などが集まって都市としての発展を見せていき、その後江戸・明治・大正時代と町村合併を繰り返して、人口を増やしながら都市機能の整備が進められていきました。
 
戦争の色がより濃くなった昭和時代、1945年に原子爆弾により廃墟はいきょと化した広島市。そこからは街の復興とともに、国際平和文化都市としての役割を果たしていくことになります。平和を発信するこの街には世界中から人々が訪れ、世界文化遺産に登録されている原爆ドームでは多くの祈りが日々捧げられています。
 
また「スポーツ王国」と呼ばれるほどたくさんのスポーツチームが本拠地として名を連ねるほか、個性ある映画館や美術館、交響楽団やアリーナを有するなど、文化的な充実度が高いことも広島市の魅力の一つ。そんな街の持つ力に惹かれて2021年に広島市へと移住し、東京と行き来しながら活動している、シンガーソングライター・映画音楽作曲家の世武裕子せぶひろこさん。熱狂的な広島東洋カープファンとしても知られる世武さんに、心が動かされる、とっておきの場所を案内してもらいました。

「八丁座」独自の上映作品と空間づくりで映画ファンを魅了

ゆったりとした劇場専用シートが、映画の世界へと誘う

広島市内中心部の八丁堀エリアに位置するミニシアター「八丁座」。映画愛の強い劇場スタッフがほぼ毎日試写を重ねて上映作品を決めており、単館系の作品から話題のメジャー作品まで、その独自のラインアップで多くの映画関係者やコアな映画ファンを魅了しています。もちろん世武さんも、その一人。

「移住前から、広島に遠征に来る機会に通っていました。八丁座はスクリーンの色にもこだわっていて、そうした少しの違いが鑑賞したときの印象を大きく変えるんですよ。今は年間会員になっているので、さらに足を運んでいます。価格帯が良心的なのもいいですよね」

ロビーには、映画館が東映京都撮影所から譲り受けたというふすま絵も

日本アカデミー賞で最優秀美術賞を受賞している広島出身の部谷京子へやきょうこさんが手掛けた館内は、江戸時代の芝居小屋をイメージしてつくられています。提灯ちょうちん緞帳どんちょう(舞台にある幕のひとつで、客席から舞台を隠すための幕)、座敷席など和の要素がふんだんに取り入れられた、他にはない“エモ”な空間です。

「私はいつも、音が聴きやすい真ん中あたりの席に座ることが多いです。ここはシート幅が広くてゆったりと座れるので、隣りに座っている人がいても気にせずに音響や作品を楽しめるんですよ。つくり手が伝えたいものをちゃんと伝えてくれるのは、ハコの力が大きいなって実感します」

併設のカフェで販売されているドリンクや軽食を鑑賞のおともに。シートに設置されたテーブルが広いため、映画を観ながらの食事もしやすい。写真は人気メニューの「手毬寿司7種詰め合わせ」

「広島に暮らして感じたのは、街の大きさや人口に対して映画館がとても多いということです。中でも八丁座は映写設備や空間のバランスがとても良くて、上映作品もかなり攻めている素晴らしい映画館!」と世武さん。今では数が減り、貴重となった市内中心部の映画館・八丁座は、これからも広島の街なかに映画の火を灯し続けます。

館内劇場はエモさを感じられるノスタルジックな印象。世武さんが音楽を手掛けた映画
『エゴイスト』も、つい最近まで八丁座で上映されていた

八丁座
住所/広島県広島市中区胡町6-26 福屋八丁堀本店8F
https://johakyu.co.jp

「喫茶モンク」バッハの音色とコーヒーのアロマに満たされる珈琲店

木の温もりとクラシカルな雰囲気が漂う店内でひと息

八丁座から徒歩5分ほど。歩いていると見過ごしてしまいそうなほどひっそりとした佇まいの、こぢんまりとした珈琲店がこの「喫茶モンク」です。世武さんが最初に訪れたきっかけは、広島の知人に紹介されたことだったといいます。

「好みの味だけを伝えてコーヒーを淹れてもらったのですが、びっくりするほどおいしかったんです。味わいがすごく繊細で、それまでに思っていたコーヒーのおいしさの概念がその一杯で変わりました」

すこやかな甘みとフルーティさが楽しめる「エチオピア アリーチャ」

店のオープンは1980年。オーナーの吉田さんは「コーヒーは果物。素材そのものの味を大切にしたい」と、オリジナルの手法「JAPAN ROAST」で焙煎した一杯を提供しています。微細にローストした豆で淹れられるコーヒーは苦みや酸みがなく、淡い色合いと口いっぱいに柔らかく広がる甘みが印象的です。メニューは選びきれないほどあるので、迷う場合は世武さんのように好みを伝えてオーダーするのがおすすめ。

店内に流れるのはバッハ。オーナーの吉田さんは元々クラシックの演奏活動もしていたそう

「バッハが流れる空間に窓から静かに光が入り込んで、この店にしか醸し出せない雰囲気があるのもお気に入りです。夕方の時間帯に来ることが多いのですが、流れる時間に身をゆだねてゆっくりと過ごしています」

音楽とコーヒーの世界に生きているというオーナーの姿勢が細部にまで反映された一軒。足を踏み入れれば、ここにはバッハの音色とコーヒーの豊かな香りに満たされた非日常の世界が広がっています。

喫茶モンク
住所/広島県広島市中区三川町8-29
営業時間/12:00〜21:00(元旦休)

「マツダ スタジアム」多彩な応援スタイルに寄り添うカープファンの聖地

広島駅から「カープロード」と呼ばれる道を歩いて約10分、カープの本拠地・マツダ スタジアムへ

最後に訪れたのは「マツダ スタジアム」。広島移住のきっかけにもなったほど熱狂的なカープファンである世武さんにとって、この場所は自身の暮らしから切っても切り離せない存在になっています。お気に入りのカープグッズに身を包んで、スタジアム内を案内してくれました。

「去年はマツダ スタジアムにほぼ毎試合通っていて、ピアノの練習時間が削られそうになりました(笑)。一人でも行くし、県外から来た友人と一緒に応援もするし、とにかく熱気に満ちたこのスタジアムが大好きなんです」

普段行くことが多いという内野自由席のほか、落ち着いて観戦できる外野指定席、グラウンドレベルで白熱のゲームを目にできる砂かぶりシート、ファン同士で熱い応援が楽しめるパフォーマンスシートなど、さまざまな応援スタイルが魅力の席を巡りながら、改めてカープ愛を言葉にする世武さん。

選手の迫力あるプレーを見ることができる砂かぶりシート

「全員で繋いで点を獲っていくチーム感とか観ていてワクワクする感じがカープにはあって、そこが本当に面白いです。『カープの野球』という“らしさ”がある。今年はクライマックスシリーズに行けると思っているので、応援にもさらに力が入っています! マツダ スタジアムはもちろん県外へも積極的に遠征中です」

歴史をさかのぼると、広島のシンボル的存在として長く愛され続けてきたカープ。そして勝負の夏を迎える今、熱いファンの声援にますます沸くマツダ スタジアム。2023年7月20日(木)にはオールスターゲームも開催予定で、全国の野球ファンがこの地で夢の球宴に酔いしれます。

マツダ スタジアム
住所/広島県広島市南区南蟹屋2-3-1
https://www.carp.co.jp/mazdastadium/mazdastadium.html

生まれ変わった広島駅と、新たにつなぐまちづくり

「自然が豊かで食べ物もおいしく、徒歩や電車やバスと移動もしやすい街のつくりや文化的な充実があって、いろんなことがちょうど良い街」と、広島暮らしの魅力を教えてくれた世武さん。広島市の中でも特に中四国最大のターミナル駅である広島駅周辺は、より一層の利便性向上を目指して整備が進められていますが、かつて駅北側の新幹線口の先には閑散とした風景が広がっていたそう。

UR都市機構も、広島の玄関口にふさわしいまちづくりを目指し、新幹線口に隣接して広がる二葉の里地区における土地区画整理事業の施行をはじめ、自由通路やペデストリアンデッキ、新幹線口広場など駅前周辺の整備に多く携わってきました。

由緒ある寺社仏閣や史跡を結んだ散歩コース「二葉の里歴史の散歩道」

また、「二葉の里歴史の散歩道」も、UR都市機構が公園と併せて緑道整備したもの。ここから二葉山のふもと一帯に歴史ある寺社が集まっています。

二葉の里歴史の散歩道内にある、1648年造営の広島東照宮

緑豊かな二葉山を背景に厳かに佇む神社や寺、広島市の歴史を今に伝える歴史の散歩道を守りながら、公園や道路、宅地などの整備が行われる二葉の里地区。新旧が心地よく共存するまちづくりは、このエリアならではの光景を日々つくり出しています。

二葉の里歴史の散歩道の一部


世武 裕子せぶひろこ
東京都葛飾区生まれ、シンガーソングライター・映画音楽作曲家。映画『日々是好日』『星の子』『Arcアーク』『エゴイスト』などの音楽を担当するほか、2023年4月にはアルバム『あなたの生きている世界1&2』をリリース。広島テレビ『テレビ派』コメンテーター出演など広島でも活動の幅を広げている。

取材・執筆:住田 茜
写真:中野一行
編集:福津くるみ

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