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子どもだけでなく、親世代もつながれる居場所づくりへ「DANCHIつながるーむ ~夏休みは団地で楽しもう!〜」:(第12回)「#Interviews まちづくりってどんな人が携わる?」

UR都市機構(以下UR)では、UR団地にお住まいの方同士はもちろん、団地外にお住まいの方などさまざまな人同士のつながりが生まれることを願い、2023年の7月24日から8月10日までの期間、「DANCHIつながるーむ ~夏休みは団地で楽しもう!〜」(以下DANCHIつながるーむ)を開催しました。


夏休みの子どもの居場所をつくる

「DANCHIつながるーむ」は、株式会社URコミュニティや日本総合住生活株式会社、近隣の大学・企業のほか、地域で活動する団体などが協力して子どもたちに自習室を提供したり、子どもが自発的に興味をもって学ぶことができるような科学実験や工作教室などを展開する企画。共働き世帯が増えてきているなか、夏休み期間などの長期休暇における日中の子どもの居場所について、悩まれている保護者も多い現状もあり、この課題解決の一助として行われました。

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「DANCHIつながるーむ」の会場のひとつ、大阪府豊中市にある「シャレール東豊中」

初開催となった2023年は大阪府と兵庫県内にある計8団地の集会所で行われ、実施期間中計1,200人以上のお子さんや保護者の方たちが参加し、好評のうちに終了しました。

大阪府枚方市にある「中宮第3」団地で行われた「団地の材料(廃材)をつかった、
時計づくりワークショップ」の様子

今回、この企画の立ち上げに携わったURの川村大輔と、この企画で子どもたちにアートと関わるコンテンツを提供してくださった“パパンダ先生”こと中村征士さんに、企画立ち上げの背景から実施に向けて苦労したことややりがいを感じたことなどのエピソードをお伺いしました。

「団地」の集会所を使った新しい企画を実現

UR都市機構 西日本支社 ストック事業推進部 事業企画課 川村大輔

最初に、昨年の担当者として企画の立ち上げから携わっていたURの川村に当時の話を聞きました。

―「DANCHIつながるーむ」を企画した理由を教えてください。

共働きの家庭が増え、子どもたちが夏休みのような長期休暇期間に入ると、子どもたちの居場所がないというのが社会課題になっています。そうした課題を解決したいという思いで企画・立案したのが、この「DANCHIつながるーむ」です。特に小学校低学年や未就学児を持つ家庭を対象に、親御さんたちが安心して子どもを預けられ、かつ子どもたちも快適な空間で勉強ができたり、興味を持って参加できる学習コンテンツを提供しようと内容を考えていきました。

―企画を進めるうえで大変だったことや進めていくうえで感じたやりがいは何でしょうか?

まず、「DANCHIつながるーむ」の名前とロゴを決めるのに苦労しました。いかにシンプルでキャッチーであるか、そして、URらしさを出しつつもイベントの内容がしっかり伝わる名前は何なのかを考えるのに時間がかかりました。結果的にはこの名前に決まり、ネーミングから地域とつながれるようなコンセプトも反映できたのでよかったと思っています。

イベントのために制作したノベルティ

また、「DANCHIつながるーむ」をオープンしてから最初の数日はなかなか人が来てくれず、みなさんに認知してもらうまでにも苦労しました。ですが、団地の共用スペースにいた親世代の方たちに声をかけていくうちに親御さんたちのあいだで口コミが広がり、徐々に来てくれる人たちが増え、最終的には満員となるコンテンツもあったので、実施してよかったなと感じることができました。

―どんなコンテンツが人気でしたか?

来てくれたのは小学校低学年の子どもたちやその親御さんが多かったのですが、アート教室など子どもたちが自分で作って持ち帰れるものや、家にいたら体験できないようなコンテンツのほか、紙芝居などは子どもたちだけでなく親御さんにも人気でした。

大阪府大阪市にある「南港ひかりの」団地で開催された
「おもしろ紙芝居フェスティバル(紙芝居を見たり作ったり)」の様子

―企画に対して親御さんからの反応はどうでしたか?

結果的に大きなクレームもなく、みなさんに満足してもらえたのでほっとしました。他にも主に、0・1歳児のお子さんをお持ちのママにお越しいただいて、ゆっくりくつろいでいただき、子供たちは保育士の経験のあるスタッフなどみんなで愛でる「ママのHOTステーション」というコンテンツがあり、そこではお母さん同士も仲良くなることができてよかった、毎日やってほしいくらいだというお声もいただき、企画の手ごたえを感じることができました。ですので、今年はもっと企画のプロモーションに力を入れて、よりたくさんの方々にご活用いただけたらいいなと思っています。

子どもだけでなく、親も楽しめる空間づくりを目指す

URの川村(左)と中村征士さん(右)

次に、この企画で子どもたちにアートを楽しむコンテンツを提供してくださった“パパンダ先生”こと中村征士さんとURの川村の2人に話を伺いました。

―中村さんの活動内容を教えてください。

中村:普段は、神戸市六甲でアートスクールを開いています。“絵を書かないアートスクール”をコンセプトに、子どもたちには一つの絵を見て感想を伝え合ったりと、絵を介したコミュニケーションを主軸にスクールを開催しています。スクールといっても、子どもたちには好きな時に参加してもらうような形です。このスクールを始めようと思ったのは、僕自身が以前、絵を見ながら対話をするという形のアート鑑賞を体験したのがきっかけで、すごく楽しくて感動したんです。それを子どもたちとやったら、子どもたちにもプラスになるんじゃないかと思い始めました。

―「DANCHIつながるーむ」の魅力は何でしょうか?

川村:
ひとつは団地って古かったり、高齢者が多いイメージですが、実は子どもがこんなにたくさんいるのだということ。もうひとつは、この企画は子どもが対象ではありますが、大人の方たちも参加したり手伝ってくださったりとみんながこの集会所でつながっていることも魅力だと思います。実際、この「シャレール東豊中」では、高齢者の方々が中心となって室内カーリング(カーリンコン)のサークル活動をされているのですが、みなさん楽しそうにやっていたので、それをコンテンツ化して子どもたちと一緒にやってくれないかとお願いしたところ、ご快諾いただき、当日は子どもも大人も本気になって一緒に楽しんでくれ、世代を超えて楽しみをつなげることができたので、お声がけしてよかったなと思いました。

―今回なぜ、中村さんにプログラムを依頼したのでしょうか?

川村:URとしてはこの企画で子どもたちに何か特別な体験をしてもらいたい、かつ体験を通じて学びにもしてほしいという思いがありました。ただ仮に、それが算数だと難しいけれどアートならどの子にも受け入れられやすいのではないかと思ったのです。しかも絵を描くだけだとハードルが高くなってしまいますが、対話型のアート体験なら正解も不正解もなくみんなが楽しめるのではないかと思い、パパンダさんにお声がけしました。

中村:声をかけていただいて、とてもうれしかったです。普段のスクールでも参加する子どもたちを学年で分けることはしていないので、そういうコンセプトにも共感しました。今度は、大人も楽しめるよう親御さんたちや高齢者の方々を入れてもいいかなと思いました。昨年は3つの団地でプログラムを開催しましたが、団地によって特色が違うのもおもしろかったです。場所によって子どもの多さや平均年齢も違うので、何が人気かも変わってきますしね。

パパンダさんが行ったプログラム『絵具で「ツクル・ミラクル」』の様子

川村:たとえば、「シャレール東豊中」の集会所には、「ぼん・しゃれーる」という本をつながりづくりのツールとしたコミュニティスペースがあり、ここは団地内外の方に関わらず利用することができるのですが、そのことを知らなかった参加者の方もいて、集会所でイベントを開催したことで知ってもらえる良いきっかけにもなりました。また、結果として、参加者の割合は団地にお住まいの方と外の方で、ほぼ半々くらいでした。

中村:まさに「DANCHIつながるーむ」ですね(笑)!

川村:はい、本当によかったです!

「シャレール東豊中」の集会所にある「ぼん・しゃれーる」

―さまざまな世代がつながる住みよいまちづくりを目指したイベントだと思いますが、参加者の方々からはどのような感想がありましたか?

川村:アートコンテンツは人気が高かった
です。子どもが自由に絵を描いていて楽しそうだった、と言ってもらえました。

中村:家だと汚れが気になって、子どもに大胆に絵を描いていいとはなかなか言えないですからね。私は子どもたちが物を作るときの勢いを殺さないことを大事にしているので、そう言っていただけてうれしいですね。勢いがあった方が仕上がりのインパクトも強いですし。

大阪府大阪市にある「南港ひかりの」団地で行われた、中村さんのプログラムの様子

川村:パパンダさんがプログラムの最後に、子どもたちに今日の学びを聞いて締めくくられていたのもよかったなと思いました。それは親御さんもおっしゃっていました。

大人気だった中村さんのプログラムは、3カ所の団地で開催。子どもの「好奇心」「情熱」が
きちんと伝わってきたことに安心したと話す

中村:私は子どもたちが作った作品について自分で説明するのをよくやっているのですが、自分の子が自分で絵を表現し、それについて言語化できるんだということに感動したという声をいただいて、実施してよかったなと感じました。学校だと時間の兼ね合いもあって、みんながそれぞれ感想を述べる時間がなかなか取れないんですよね。なので、全員に感想を聞いています。もちろんシャイな子もいますけど、参加しているうちにだんだんとしゃべれるようになっているんです。短時間でもそういう変化があるのでやりがいを感じます。

―企画を通して気づいたことや学んだことはありますか?

川村:企画では8団地同じパッケージで一気に実施したのですが、団地ごとに特性があり、同じコンテンツでも、人気であったり、そうでなかったりという違いもあり、学びがありました。いい意味でパッケージでやることの気づきがありました。

中村:私は逆に共通のことがあって安心しました。もちろん、団地ごとに子どもたちのキャラクターの違いみたいなものはありますが、子どもの好奇心の強さはどこも同じという気づきがありました。よく親御さんたちから子どもがゲームやYouTubeが好きで困っているという悩みを聞きますが、物を作り始めると夢中になる子どもが多く、情熱を持っていることに安心しました。時代は違っても子どもたちの根っこの部分は同じなんだなと感じましたね。

―まちづくりに携わるにあたって重要だと思うマインドや考え方はありますか?
 
川村:ここ最近、“団地を開く”ということで団地にお住まいの方だけでなく、周辺地域の方々にもイベントに参加いただいています。団地だけでなく、団地を中心に周辺地域が盛り上がっていけたらいいなという思いは常に持っています。団地というハードだけでもだめですし、イベントなどを通じて、ここに住んでよかったなと心から思ってもらえるようなソフトの部分のケアも大事だなと思っています。

「DANCHIつながるーむ」の名前の通り、人々が繋がることができ、
交流することができたと話す二人

中村:川村さんがおっしゃったそのURさんの思いはお声がけをいただいた去年初めて知ったのですが、私もそれは大事だと思いましたし、共感しています。団地は人が多いので、ここに住んでいる人たちが活き活きして、その輪が周辺地域にも広がっていくといいなと思っています。

―「子どもの居場所づくり」の意義とは何でしょうか?

川村:子育て支援は子どもにフォーカスされがちですが、親御さんの支援が重要だと思うんです。できるだけ子どもたちの居場所を作ってあげることで親の皆さんの自由時間を作れるようにしたいと思っていますし、親御さんたちも参加できるような実りのある時間を提供できたらいいなと思っています。
 
中村:僕は以前、子どもが家と学校以外にいられる場所があると自己肯定感が高まるというデータを見たことがあります。子どもたちにとってもいろんな顔を持っていることが心の解放にもつながると思うし、このプログラムもそういうひとつの場所になればいいなと思っています。

―最後に、今後への期待を教えてください。

川村:この企画にもっとたくさんの子どもたちに参加してほしいですし、まずはふらっと見てもらうだけでもいいので、多世代の人たちに知ってもらいたいです。
 
中村:私はスクールでよく子どもの親御さんたちと個人面談をしていますが、そもそも子育てをするお父さんお母さんたちには自分のことに構う時間がほとんどないんですよね。ですので、そういう機会を提供して、子どもだけでなく、親御さんたちも楽しめる場所を作れたらと思っています。

2024年は、さらに充実したコンテンツでの実施

最後に、「DANCHIつながるーむ」現担当者であるURの尾崎仁美に、今年の企画内容や思いについて話を聞きました。

UR都市機構 西日本支社 大阪エリア経営部 エリア計画課 主査 尾崎仁美

―2024年の「DANCHIつながるーむ」の見どころを教えてください。

今年は大阪府、兵庫県、京都府、奈良県の2府2県下の13団地での実施となり、開催団地も増え、より広い範囲で行われます。引き続き人気コンテンツは続けていきますし、今年は地域のプレイヤーの方々と行うコンテンツも増やすので、そこも魅力の一つです。アートもありますし、図工や自由研究などの実験なども実施する予定ですので、集会所等で、楽しく「クールシェア」していただくことが出来ると思います。

―イベントに対する抱負を教えてください。

実は去年の開催時、私は大阪の南部エリアでひとつの団地を担当していました。やはり夏休みの子どもたちの居場所作りや親御さんの支援は求められていることを感じたので、前任の川村の思いを変わらず引き継ぎ、地域とつながっていけたらと思っています。

―まちづくりに携わるにあたって重要だと思うマインドや考え方はありますか?

ひと言では難しいですが、地域の方々や地域に元からあるものとつながっていくのは大事だと思っています。では、どうやってつながっていくかを考えるとき、例えば人と人だったら心を開く、つまり自分たちの思いや、やっていることをきちんと話して開いていかないとつながれないと思っているので、そこは丁寧にやっていきたいと思っています。URとしては“団地を開いていく”ことや、それについてどんどん発信していって地域の皆さんたちとつながれたらいいなと思っています。

今年も実施される「DANCHIつながるーむ」。関西圏のみではありますが、子育てをされている親世代の方々にお子さまと一緒にぜひご参加いただき、楽しい夏の思い出を作っていただけたらと思っています。こちらの公式サイトからぜひ、チェックしてみてください。

中村さんのプログラムも開催される、大阪府堺市の「白鷺」団地のコンテンツ

執筆:日暮まり
写真:三好沙季
取材・編集:福津くるみ