虎ノ門ヒルズ駅の拡張工事が完成。駅まち一体のまちづくりで生み出される、新たな賑わいとは?:(第7回)「#Interviews まちづくりってどんな人が携わる?」
東京メトロ日比谷線の「虎ノ門ヒルズ駅」が2020年に新たに開業し、注目を集める東京・虎ノ門エリア。国際競争力の強化を目指して開発が進んでおり、2014年の「虎ノ門ヒルズ 森タワー」以来、「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」などが続々と竣工。2023年7月15日には虎ノ門ヒルズ駅の拡張工事が完成し、グローバルビジネスの新たな拠点として機能することが期待されています。
2023年10月には虎ノ門ヒルズ駅に隣接する形で、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が開業。こちらは駅と一体となった地上49階建ての多用途複合の超高層タワーで、新たなランドマークとして機能することが期待されています。
虎ノ門ヒルズ駅の拡張工事をはじめ、UR都市機構(以下UR)は、森ビル株式会社、東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)と協働で虎ノ門エリアのまちづくりを進めてきました。その中で、3社が共通して目指すのが“駅まち一体のまちづくり”です。この開発によって虎ノ門がどのように進化するのか、3社の鼎談を通じてお届けします。
虎ノ門エリアにはどのような特徴があり、虎ノ門ヒルズステーションタワーの開業でどう進化するのでしょうか?
川里:虎ノ門エリアは、官公庁が立ち並ぶ霞ヶ関、大使館や商業施設が多い六本木や麻布、ビジネスパーソンが行き交う新橋と隣接しており、かねてより国際的なビジネス拠点にふさわしい立地です。そうしたポテンシャルを活かすべく、特定都市再生緊急整備地域に指定され、国際的なビジネス・交流拠点の整備、交通結節機能の強化が推進されています。臨海部と都心を結ぶ環状2号線が開通し、東京BRTが運行を開始するなど、交通機能が向上するとともに、「ホテルオークラ東京」や「虎の門病院」といった主要な施設も再整備が完了しました。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に合わせて、スピーディーな整備が進められてきたことも特徴です。
こうした中で、私たちURは、東京メトロさんとともに虎ノ門ヒルズ駅の整備を進めてきました。森ビルさんが手掛ける虎ノ門ヒルズ ステーションタワーは、当駅と約2,000㎡の地下鉄駅前広場「ステーションアトリウム」を通じて一体的に接続しており、今回の開業によって「駅とまちの一体化」が実現したことになります。
虎ノ門エリア開発プロジェクトにおける、3社の役割を教えてください。
川里:URは、虎ノ門ヒルズ駅整備の事業主体です。また、周辺の都市開発事業をつなぐ、コーディネーター役を務めています。都市開発事業ではさまざまな関係者が携わるものですが、長年のまちづくりで培ったURの調整能力を信頼していただいた形です。
細川:東京メトロはURさんから委託され、虎ノ門ヒルズ駅の設計から施工までを担当しています。私たちはこれまで、全9路線の地下鉄整備から営業線の改良工事まで、長年にわたり地下鉄建設のノウハウを培ってきましたが、当駅は極めて稀な事例です。通常、地下鉄の駅というのは、道路部分に複数の出入口を設置しますが、当駅の場合は、駅と隣接する虎ノ門ヒルズ ステーションタワーとグラスロックとの接続部分にのみ出入口を設ける仕組み。これはステーションタワーを中心に“駅”と“まち”が一体化するというコンセプトがあったからです。当社としても新しい試みでした。
井坂:その虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの整備を担っているのが、森ビルです。虎ノ門一・二丁目地区市街地再開発事業の参加組合員として参画しており、駅まち一体のまちづくりの構想実現を目指して、URさん、東京メトロさんと連携してきました。再開発エリアには、もともとまちに住んでいる地域の皆さんがいます。そうした地元の方々と合意形成を図りながら、行政機関や鉄道・道路管理者などとも連携して、再開発を進めてきました。
川里:つまり、地下鉄を安全に運行しながら駅を設計・施工する東京メトロさん、まちを開発する森ビルさんを、URが駅を整備する立場に立って双方のプロジェクトが円滑に動くための調整役としてつなぐ。“駅まち一体のまちづくり”という目標に、3社で向かうのが本プロジェクトなのです。
皆さんは虎ノ門エリアにどのような印象を持っていましたか? まちづくりに携わって感じた変化も教えてください。
川里:プロジェクトに携わった当初から、森ビルさんが手がけた建物をオフィスワーカーの方々が行き来していて、新しいビジネスの中心地になるだろうと思いました。いざプロジェクトに携わるようになると、まちが変わっていくスピード感に驚かされ、本当に活気のあるエリアなのだと実感しています。
細川:虎ノ門に銀座線の駅しかなかった数年前までは、ビジネスといっても、どちらかというと“お堅い”イメージが先行していた印象です。開発が進むにつれて先進的なイメージになったとともに、レストランやホテルなどが揃い、ビジネスにとどまらないまちに進化したと感じました。
井坂:グローバルなビジネス拠点を目指すためには、単にオフィスをつくればいいわけではありません。グローバルプレーヤーの生活環境をサポートする国際水準の住宅、ホテルやカンファレンスなどの文化施設、ショップやレストランなどの商業施設、緑豊かな自然環境など、多様な都市機能が徒歩圏内に集約された環境が必要になります。それらの整備を進めることで、今まで虎ノ門にはいなかったような新たな人の流れが生まれたと感じています。特に森タワーに入るホテル「アンダーズ東京」や「虎ノ門横丁」をはじめとする商業施設などは、ビジネスパーソンだけでなく、休日にも観光客や子供連れなど多くの人が集まるようになり、より活気づいたと思います。
虎ノ門ヒルズ駅拡張工事の完成と虎ノ門ヒルズステーションタワーの開業による駅とまちの一体化の実現。これにより、虎ノ門エリアはどのように進化するのでしょうか?
川里:大きな変化の一つが、回遊性の向上です。駅改札を出ると、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの地下層に駅前広場「ステーションアトリウム」が広がり、そこからビル内の商業ゾーンやオフィス、イベントスペースへと直結します。さらに銀座線の虎ノ門駅とも地下連絡通路でつながっているため、乗り換えも便利になりました。多様な目的を持つ人々が集まり、駅からタワー、そして周辺のまちへと賑わいが広がるはずです。虎ノ門や新橋には低層の建物が集結する地域もあり、個性的な商店も立ち並んでいます。そうした地元の皆さんにも効果が波及することを期待したいです。
井坂:森ビルは虎ノ門ヒルズを「国際新都心・グローバルビジネスセンター」とすることを目指し、さまざまな機能をコンパクトに凝縮させるように開発を進めてきました。また、環状2号線の全線開通により臨海部や羽田空港とのアクセスも向上しました。国際的なビジネスや観光、人的交流が活発化することで、「世界と東京都心を繋ぐ新たな玄関口」になるのではないでしょうか。
細川:虎ノ門ヒルズ駅の交通結節機能がより強化されれば、そこを基軸に他のまちにも移動しやすくなります。東京全体の回遊性も向上し、世界中から集まった人々が行き来できる。鉄道事業者である私たちとしては、虎ノ門がその中心地の一つを担うことに期待しています。
今後、虎ノ門エリアの開発において、成し遂げたいことを聞かせてください。
細川:まずは引き続き工事が必要な部分が残っているので、そこを安全かつ円滑に進めていくことが第一です。日比谷線を営業しながら新駅を設けるという前例のない工事は大変なものでしたが、日々の運行を安全かつ安定的に維持しながらここまで無事に整備を進められたことは、大きな前進だと感じています。だからこそ工事を最後まで無事に終え、たくさんの人に足を運んでもらえるようになってほしいですね。
川里:虎ノ門エリアには寺社仏閣など、歴史ある建築物もあります。開発は必ずしも新しいものをつくるだけではなく、伝統や文化を残しながら、融合していくことも大切だと思っています。新しいものと古いもの、新旧交わった国際的な交流拠点として、虎ノ門が東京を代表するようなまちになる。そんな未来を目指したいです。
井坂:森ビルは、虎ノ門エリアの開発に長年従事してきました。虎ノ門ヒルズ ステーションタワーと虎ノ門ヒルズ駅の完成をもって、街の建物や交通インフラといったハードが整備されました。今後は、より多くの人に訪れていただけるような「人」を中心にしたまちづくりを本格化したい。それを実現するために、街の賑わいや活気を創出し、コミュニティを育くむようなソフト面での仕掛けをたくさんつくっていきたいです。
皆さんが思う、まちづくりに携わるにあたって重要なマインドや考え方を教えてください。
井坂:先ほどお話した国際競争力などのマクロの視点に加えて、街を訪れる人一人ひとりの目線にたったときに、「美味しいお店がある」「なんか、この公園いいよね」というミクロな視点も大切だと思います。虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの駅広場もこれまでの地下鉄駅にはあまりない象徴的な空間なので、虎ノ門の顔として「待ち合わせ場所は駅広場」と多くの人に言ってもらえるような場所になったらいいですよね。
細川:まちは人が集まる場所だということを忘れない、ということですよね。その場所に長年住んでいる人もいるなかで、新しいものをつくりつづけても、生活や文化を大切にしなければ、むしろ人は離れてしまう。今回のプロジェクトでは、現場の担当者も虎ノ門の町会長さんと仲良くさせていただき、「今度、祭りに出て神輿を担いでくれ」と依頼いただいたこともありました。そんなつながりが、私は大事だと思っています。
川里:私もこの夏、初めて神輿を担ぎました!土地の文化を尊重することは、大切ですよね。その街らしさを活かす場をしっかりとつくっていくことも、まちづくりに携わる我々の使命です。そして、たくさんの人が関わるからこそ、“調整”は丁寧にしたい。そのことはいつも心がけています。
川里さん、細川さん、井坂さん、ありがとうございました!伝統と革新が融合された、虎ノ門エリアの新しい姿に期待しましょう。