長岡~歴史を感じるレトロさと未来に向かう新しさと〜:(第4回)「#エモ街」
新潟県長岡市。この場所は、日本を代表する花火大会のひとつでもある「長岡まつり大花火大会」が行われる地としても知られています。信濃川に沿って大パノラマで繰り広げられる大型花火を“一目見たい”と、毎年開催時は全国から多くの人々が長岡のまちを訪れます。
長岡市の歴史と駅前の商店街
そんな長岡市ですが、もともとJR長岡駅周辺は江戸時代、長岡城のあった場所で、1618年から明治維新までの250年あまり、長岡藩主として長岡の地を統治した大名家である牧野家により統治(※1)されていました。
現在は、JR長岡駅から信濃川方面に向かってまっすぐ延びた「大手通り」という大きな通りがあります。大手通を中心に、大手通商店街・すずらん通商店街・セントラル通商店街・殿町通商店街・駅前商店街・新天街連盟と6つも商店街があるのは、この一帯が当時城下町であったことをうかがわせます。一つ先の宮内駅には宮内商店街もあり、長岡は長い歴史のあるまちでもあります。
それぞれの商店街には、昭和の面影を残すちょっとレトロなたたずまいとアーケードに沿って立ち並ぶ数々の商店。かつての雰囲気を残す老舗の店もあれば、新しい世代によって「リノベーション」された店や行政施設もあり、このまちは歴史を感じるレトロさと未来に向かって「リノベーション」が進む「エモ街」です。
今回は、この駅前商店街エリアにある商業施設や、このまちが好きで自らのお店を立ち上げたという若い世代が営むショップなどをご紹介します。
「アオーレ長岡」子どもから大人までが集う、市民の交流の場
まず、駅前から大手通りを歩くと左手に見える、存在感のあるモダンな建物。これが、イベントスペースや行政施設も兼ね揃えた複合施設の「アオーレ長岡」です。
千鳥格子のようなデザインが印象的なこのアオーレ長岡の設計は、建築家の隈研吾氏によるもの。5,000人を収容できるアリーナに、開放感のあるナカドマ(屋根付き広場)、そして市役所が一体となった全国初の複合型施設です。
「アオーレ長岡は、市民が集まって交流する場所になることを目的に建てられましたが、オープンするとナカドマに自然と市民が集まってくれるようになったんです。朝はここでみんながラジオ体操をしたり、昼間はサラリーマンの姿があったり、夕方は学生さんが集まったり。オープンで明るい雰囲気があるから人が集まりやすいんでしょうね。目の前の通りも人通りが増えたようで、路面店の空きはなくなったと聞いています。中の施設も市民の方から自発的にイベントを開催したいとたくさんのお問い合わせが来るようになったので、オープンしてよかったなと思っています」と話すのは、アオーレ長岡の運営を担うNPO法人ながおか未来創造ネットワークの事務局長、木口信雄さんです。
アオーレ長岡では、市民とのつながりをとても大切にしています。オープン当初は、この場所でできることをアピールするために、人前結婚式の実施など、ユニークなイベントを仕掛けたそうです。「自分たちもこんなことをやってみたい! という市民の方がたくさんいらっしゃって、今では市民主催のイベントが8〜9割を占めています。市民の方にはここを使いこなしてもらいたいので、極力制約を設けず、できるだけみなさんのやりたいことが実現できるようにお手伝いしています」と、木口さんは話します。
駅前の商店街エリアの魅力や、このエリアを盛り上げていくには「循環」がキーワードと話す木口さん。「アオーレ長岡のような施設を使いこなしてもらい、その次はまち歩きをしてもらってまちを使いこなしてもらう、そうして人の循環が増えていったとき、まち歩きをする人々を商店がうまく集客できたら好循環が生まれるんじゃないかなと考えています。そんな循環が生まれる可能性に富んでいるのも、このまちの魅力だと思っています」
「GOOD LUCK COFFEE」ゆったりとした時間を過ごす
次に紹介するのは、すずらん通りにあるコーヒーショップ「GOOD LUCK COFFEE」。インダストリアルな雰囲気と、木材インテリアやたくさんの観葉植物による優しさに包まれた明るいお店です。
カフェを経営する前は庭師だったという、代表の青柳拓郎さん。「その経歴もあってこのまちを『緑化』できたらいいなと思っていました。この商店街エリアは、幼い頃よく買い物に連れてきてもらった思い出のある場所で、昔は人も緑も今より多かったんです。それがだんだんと少なくなってきていて。緑もカフェも一緒で、なくても生きていけるものだけれど、それがあることで心が潤い、生活に明るさが出てくる。そうなるとまたあの場所を訪れたいという人が増えてきて、人が人を呼ぶ好循環が生まれると思います。そういう意味もあって、あると日常が豊かになる存在でいたい。それをこのまちで表現したいと、当初店を構えていた住宅地エリアから移転してきました」と、ここにオープンしたきっかけを話してくれました。
長岡駅前の商店街エリアの魅力については、「このエリアの良さはまさに“商店街”であること。駅前なので、さまざまなお客様に出会えます。近隣で働く人や出張で長岡を訪れた人、日本へ旅行中の外国人のお客様も来ます。そうして来られた方がまた来たい場所だと誰かに伝えたくなるような時間を過ごしてもらえたらと思います。商店街って何かの目的があってそのついでに歩いていたらこんな面白いお店があったとか、発見のある場所。だから近隣のお店の方とのつながりがあるのも商店街のよさですし、『これがあったらおもしろそうだよね』と何気ない会話からいいアイディアが浮かんだりするのもおもしろいなと感じています」と、答えてくれました。
スタイリッシュなインテリアに気分をリラックスさせてくれるカフェミュージック。そんな空間で淹れたてのコーヒーを飲みながら自分の好きな時間を過ごす。それは間違いなく訪れた人にとって最高に心地いい時間で、また来たいと思うオアシスのような場所です。
お店で一番人気なのは、アメリカーノ、グッドラックラテ、オールプレスブレンド。ドリンクだけでなく、長岡市に店を構える「ブレッド アース」さんのドーナツやベーグル、「ラ・マドレーヌ」さんのティラミスなどもメニューに並びます。どれもコーヒーに合うスペシャルなものばかりなので、ぜひオーダーしてみてください。
「暮らしの雑貨店 HOPI」雑貨の魅力を再発見
最後は、同じくすずらん通りにある「暮らしの雑貨店 HOPI」。アクセサリーから服、雑貨、食品や食器なども扱うライフスタイルショップで、オーナーである清水さんが全国から集めた暮らしにあたたかさとアクセントを与えてくれるアイテムがセンス良く飾られています。
同店を営むのは、現在23歳の清水麻琴さん。オープンしたきっかけを尋ねてみると、「オープンさせたときは大学在学中だったんです。昔からいつかお店をやってみたいという気持ちはあったんですが、時期は決まっていませんでした。ちょうど就職活動に疲れてしまったというのもあって、ならば自分でお店を持ってみようと。今思うと完全に勢いでしたね(笑)」と、笑顔で話してくれました。
商店街エリアの魅力については、こう話します。「この場所にオープンしたのは、大学から近かったのもありますが、昔から商店街という場所が好きだったからです。地方だと大型ショッピングセンターばかりですが、商店街は昔ながらの老舗と新しいお店が入り混じっていておもしろく、このゆるっとした雰囲気が好きなんですよね。立ち寄って下さったお客様とおしゃべりするのも私にとっては素敵な時間です。昔どこかで、人には家と学校(会社)ともう一つ自分の居場所となるものがあるといいという話を聞いたんですけど、お客様にとってHOPIがそういった存在になれたらいいなと思っています」
店頭に並んでいる商品は、それぞれ作り手の想いが感じられるこだわりのものばかり。「今後は新潟県内で作られたものをもっと積極的に置く予定です。コーヒーでおもてなししたり、作家さんを招いたイベントも多くやっていきたいと思っているので、来て下さる方々の憩いの場としてもっと展開できたらいいなと思っています」
大きな窓から差し込む光とオーナー清水さんの温かなお人柄に包まれ、とても居心地のいいお店。GOOD LUCK COFFEEさんからもすぐ近くなので、合わせて訪れてみてください。
再開発が進む、長岡駅周辺エリア
個性あふれるお店が他にもたくさんある長岡駅周辺エリアですが、そんな商店街の良さをもっと引き延ばしていこうと、駅前を中心に再開発が進んでいます。私たちUR都市機構(以下UR)は、「まちの顔」となる大手通り沿いの再開発に施行者として携わっており、「人づくり」と「産業振興」を総がかりで支える地方創生の拠点「米百俵プレイス」の整備を進めています。令和5年7月に先行オープンしたばかりの施設「米百俵プレイス 西館」の整備では、権利者、行政、建設会社や設計会社などの関係者間のさまざまな調整など、幅広く携わっています。
今回、米百俵プレイスの開発に携わったURの大塚佳祐にも、長岡市でのまちづくりや魅力ついて聞いてみました。
長岡に来てから4カ月ほどでまだそんなに経っていないものの、まちの魅力に惹かれていると話す大塚。「人と人の新しいご縁ができることに期待したり、いろんな店舗の方と出会い、そこからまた新しい出会いがあるという循環があるのがこのまちの魅力だと思います。あとはまちに二面性があっておもしろいこと。信濃川の西側と東側でまちの性質が違ったり、中心部でも昼間と夜間でまちの華やかさが変わり、個性がコンパクトに集まっているなと思います。夜11時からオープンするラーメン屋さん(「中華 大吉 長岡店」)や、店名のとおり夜しか開いていないケーキ屋さん(「夜だけのケーキ屋さん」)、昼間と夜間で違うお店を展開しているお店(「スプレッド」「スペイン料理 あおぎり」など)もあったりと、ユニークなお店が多いのもこのまちのおもしろさです」
現在入社2年目で、まちづくりに携わる際には「地域に入り込んで歴史を知ること」、次に「このまちをこうしたいという想いを持ち続けること」、そして「まちへの敬意と感謝を忘れないこと」の3つを大切にしているといいます。
「まちの歴史を知ると、そのまちの文化がわかります。たとえば、『米百俵(※2)』(長岡藩士小林虎三郎が述べた「人びとのくらしが豊かになるのも、国が富むのも、人民の教育が左右する」という考え。「人づくりはまちづくり」として受け継がれたことが、米百俵の精神に繋がる)や『互尊思想(※3)』(長岡市の商人であった野本恭八郎が創造した思想。他を尊んで、みずからの人間性を高めてゆく作用を持つという特徴を持つもの) というこのまちに根付く人づくり、まちづくりへの想いがわかるようになりますし、それを反映したまちづくりを行いたいと思うようになります。そうやって『このまちをこうしたいという想いを持ち続けること』で、そうした想いを同じくする人が自然と集まってくるんです。まちは、そのまちに住む方々のためのものであり、自分事としてまちに関われるのは、やはり市民の皆様であるので、長岡の地で働くものとして『まちへの敬意とそのまちで働けていることへの感謝を忘れないこと』も大事にしています」
大塚さん、ありがとうございました。古くから未来を見据えて人材育成に力を注ぐ精神が根付く土地でもある長岡市。そんな古来から続く地元の人々の思いを大切にしながら、わたしたちURはこれからも長岡市のまちづくりのお手伝いをしていきます。