新橋のまちづくりを学生たちと考える:(第8回)「#Interviews まちづくりってどんな人が携わる?」
まちには、老若男女幅広い世代の人たちが暮らしています。そのため、まちづくりをするうえではさまざまな視点や意見、アイデアが必要になってきます。
まちの歴史やそこに暮らしたり働く人たちの声はもちろん、まちを俯瞰で見た客観的な意見や、時には現実の枠組みから一歩離れ、自由に想像をめぐらせながらまちの理想像をイメージすることも大切なことでもあるでしょう。
UR都市機構(以下UR)では、ときには自由な発想でまちづくりを考えてみようと、これからのまちの“あったらいいな”を考える場を設けています。
「Town Play Studies」と考えるまちづくり
昨年度より10代のクリエーションの学び舎「GAKU」を舞台にクラスを開講している、インタラクティブ・メディア・ラボ「Town Play Studies」(以下TPS)。建築設計や都市デザインの知見をベースに、これからの空間に対する感性、場に関わる積極性、公共性に対する問題意識などを育むため、建築をベースに、これからのまちや都市空間について知り、つくり変えていくための知識やマインドを学ぶ授業を共に展開しています。
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TPSを運営する建築家の海法圭さん、津川恵理さん、建築リサーチャーの川勝真一さんは、主に10代の若者たちに向けて「遊び」を通じてまちや空間に対する感性、場に関する積極性、公共性に対する問題意識などを育む活動をしています。
過去には渋谷を舞台に鬼の指示に従いながら街を巡りつつ、位置情報を使うという新しい鬼ごっこ「ルートおに」をしたり、段ボールを使ったパーソナルスペースをまちで自由に作ってみたり。ユニークかつ新しい遊び方で若者がまちについて思考したり、感じたりする機会を複数回提供してきました。
新橋のまちの理想像をコラージュで自由に表現
そして今年は、新橋のまちをフィールドにした活動をしています。
今年度の「(Non)Fictional Urbanism –まちの観察と実験–」と題したクラスでは、URが2009年より地元まちづくりの運営支援や港区の計画策定支援などを通じて、まちづくりに取り組んでいる港区・新橋エリアを舞台にした演習型の授業を展開しています。
11月18日(土)に行われたクラス(第7・8回)では、当日参加した学生たちが新橋のまちの“あったらいいな”をコラージュ制作で発表するというもの。実際に新橋のまちを歩いて写真に撮ったり、インターネットで新橋のまちの画像を自由に検索したりしてコラージュの素材を収集。それを引き延ばしてカラープリントし、それぞれの理想とする将来の新橋のまちのコラージュ作品を制作してもらいました。
新橋で見つけた魅力や理想の風景を何枚もの切り取った画像と組み合わせてできたコラージュ。最後はそのコラージュとともに各自によるプレゼンテーションタイム。建物と建物が縦横無尽につながり、どこへでも行き来できるようになっていたり、地下には広大なイベントホールがあったり。どれも想像力にあふれ、エネルギーに満ち溢れていました。
知らなかったまちを「体験」する
今回の授業に参加してくれた生徒さん二人に、授業を受けようと思ったきっかけや、受けてみた感想、そして新橋の魅力なども聞いてみました。
依田葉月さん:もともと建築には興味があったので参加しました。まちづくりについては全く知らなかったし、新橋にはほとんど来たことがありませんでした。でも授業を通してまちを能動的に知ることで、街頭インタビューのイメージしかなかったSL広場や飲食店の路地も温かみがあって、その古さがいいなと感じるようになりました。まちを知ることで、まちに対してもっとおもしろいことができるんじゃないかといろいろ考えるようになりました。
伊藤詩太さん:僕も以前から建築に興味があり、個人的にもまち探索をしたりしていたのもあって今回参加しました。TPSの授業でいろいろまちの変遷や歴史を知るにつれて、今の路地や建物など、まち全体がそれぞれプロによる想いや考えのもと設計されているのだなというのが実感できるようになりました。新橋はこれまでそんなに来たことはなかったのですが、ニュー新橋ビルは好きな場所です。中で働いている人たちもキャラが立っていて、個性的なお店がたくさんあっておもしろいなと感じました。
依田さん、伊藤さんありがとうございました。
若い世代との「会話」で見出すもの
TPSのメンバーである津川さんと、彼らとの取り組みを一緒に担当しているURの坪田華にも、この活動やまちづくりについて話を聞きました。
―TPSを立ち上げたきっかけを教えてください。
津川:わたしたちのほとんどはそれぞれの“まち”に暮らしているにも関わらず、そのまちがどのように作られているかを知ることや、まちに積極的に関わるといった体験をほとんどしてきていません。そういったことを背景に、機能的・合理的な街ではなく、本当に人にとって豊かな街が何なのかを、創造性が豊かな10代の学生と一緒に考えていきたいと思い発足しました。
―「(Non)Fictional Urbanism –まちの観察と実験–」は、どのようなテーマ設定ですか?
津川:これは、TPSの今年の活動テーマです。社会があり、機能的で超現実な都市空間に対して、“もしかしたらこんな状況があり得るかもしれない”というちょっと現実から飛んだ状況を生徒たちにイメージしてもらいます。
たとえば、地下にゴルフ場があったり、“NO”を示す標識に対して“YES”を示す標識をつくってみたり。“あり得ないけどこんなものがあったらいいな”を自由に考える作業です。先ほど紹介いただいた“ルートおに”や段ボールを使ったパーソナルスペースを作ってみるといったさまざまなプログラムを通して、実際にまちに繰り出し普段のまちを違う角度からとらえてみたりと、まちのポテンシャルを感じてもらうことを目的としています。
―対象が12〜20歳(中学生以上)ですが、若い世代の方々と対話する中で、とくに興味深い点や新しい学びになる部分はどういうところですか?
津川:学生たちの発想は、オリジナリティ豊かでこちらも驚かされることがあります。私たちも彼らと同じようにフィールドワークをしてアイデアを出したりしますが、建築家という枠を一度外してピュアにものごとをとらえるというのは純粋におもしろいですし、毎回新しい発見に出会います。
―日本の都市のまちづくりにおいて、ユニークだと思う点や、なにか今後取り入れたい取り組みや事例など、考えていることはありますか?
津川:南池袋公園ができたときに、池袋のイメージが良い方向に一新された感じがしました。公園が変わるとまちのイメージが変わりますし、まちのポテンシャルを感じました。
今後考えていることとしては、都市の移動空間(公共の歩道橋や乗り物など)を建築家がデザイン・設計してみるとどうなるか、というのに興味があります。ニューヨークではハイライン(注:ニューヨーク市にある線路跡を活用した空中公園)を設計した事務所(Diller Scofidio + Renfro)に勤務していたのですが、あれができたことでまちが活気づきましたし、いい循環ができたと感じました。そうした既存の土木インフラをどうしたらいいのか、日本も考える部分があると思います。
―TPSにURが関わろうと思ったきっかけは何ですか?
坪田:若い人にまちを知ってもらうことや、まちに興味を持ってもらうきっかけを増やしたいという私たちの思いと、TPSの趣旨が合致したからです。日本人は都市や公共空間との心理的距離が遠く、家と会社や学校の往復だけの生活になっている人が多いと感じます。もっとまち自体を楽しめるとそういった距離感も変わってくると思います。
また、まちづくりはとても時間がかかるもので、今、検討段階のまちができ上がってくるころには、若い人たちは大人になっています。今の大人の価値観だけでなく、若い人たち、つまりこれからまちを使い尽くしてくれるであろう人たちが今のまちのどういうところが好きなのか、これからまちがどうあったらいいと考えているのかを知りたいと考えています。
―TPSを通じて若い世代の方々にどのようになってほしいですか?
坪田:まちとはいろんな関わり方があっていいと思います。自分とまちとの接点をそれぞれがみつけてくれたらいいなと。結果的に一緒にまちづくりに関わってくれる人が増えてくれたらうれしいです。
―TPSで出てきたアイデアを、どのようにまちづくりに生かしていこうと思いますか?
津川:学生と同じワークをやっていると学生の自由な発想に刺激を受けて、おもしろいアイデアが出てくるのです。普段見ない視点でまちを見る機会なので、イノベーティブな発想が次々に出てきてありがたい時間ですし、その思考実験のような時間は本業に還元できているのでいい循環があると思っています。
坪田:TPSさんのワークで出てきたたくさんのおもしろいアイデアをまちづくりに反映したいですね。公共と民とをつなげ、広くみんなに還元していくことができるところにまちづくりの仕事の醍醐味を感じています。
―まちづくりに携わるにあたって重要だと思うマインドや考え方はありますか?
津川:地元の人とのコミュニケーション、つまり今いる人たちとどれだけ会話できるかが大事だと思っています。やはり、まちは地元の方々によって作られているので、どういう人が関わっていて、まちづくりにどんな思いがあるのかをきちんとコミュニケーションをとって知るのは重要だと思います。
坪田:自分が本気じゃないと、相手も本気になれないと思うのです。自分のまちに対して思いや熱意を見せないと、まちの人たちもついてきてくれない。そういう意味でも、いろいろな人とのコミュニケーションは大事だと思っています。
津川さん、坪田さんありがとうございました!
URはまちづくりに興味を持って関わってくれる人が一人でも増えるように、これからもさまざまなイベントをレポートしたり、開催していきたいと思っています。