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神楽坂 〜セドリック・リヴォーさんと巡る、“エモ”な裏道小径〜:(第1回)「#エモ街」

江戸時代から門前町や花街として繁栄した神楽坂。街の観光名所のひとつ、毘沙門天 善國寺で始まった夜店の賑わいから、日本で初めての歩行者天国が行われた地。現在も神楽坂通りが日曜と休日の正午から午後7時まで、神楽坂交差点から赤城神社前交差点が歩行者専用道路になっています。

また、1952年に東京日仏学院が創設されたことにより、神楽坂周辺にフランス料理を提供するレストランやカフェが登場し、近隣に在住するフランス人も増えたことから、20世紀後半は街を歩けばフランス語が耳に入る街として人気に。以来、パリに憧れる若者から、美食とお酒を嗜む大人たちまで、エスプリに富んだ嗅覚がきく人々を虜にしてきました。

今回、神楽坂のお気に入りスポットを案内してくれたフランス人のセドリック・リヴォーさん。坂の多い場所としても知られるパリ・モンマルトル出身のパリジャンで坂道はお手のもの、というセドリックさんは2001年に来日して以来、神楽坂周辺をベースに活躍されています。現在は東京日仏学院の講師を勤めている彼が、人気店からとっておきの隠れ家まで、“エモ”を感じる場所を教えてくれました。

「オー・メルベイユ・ドゥ・フレッド」懐かしいフランスのお菓子をモダンに昇華

看板メニューの「メルベイユ」はミニサイズでさまざまなフレーバーで展開

神楽坂の駅前を降りてすぐにあるパティスリー「オー・メルベイユ・ドゥ・フレッド」その華やかな見た目からSNSでも人気の「メルべイユ」は、フランスの伝統菓子でメレンゲにホイップクリームをのせてダークチョコレートチップでコーティングしたもの。看板メニューとなっている逸品は、手土産やギフトにも喜ばれる”映え”スイーツになっています。月に一度はこちらに訪れるというセドリックさん。おしゃれに仕立てられたメルベイユとよく似たお菓子を、子供の頃に近所のパン屋で買って食べていたそう。“エモ”な味に再会した喜びを語ってくれました。

『フラマンドル風ワッフル』はバニラとヴェルジョワーズの2種類

「とびきり甘くフレッシュな素材の味そのままの『メルベイユ』と、日本では出会えなかった『フラマンドル風ワッフル』も、このお店で見つけた時はうれしかったですね! 北フランスのリールに有名なお店があって、懐かしの銘菓を思い出しました」

美味しそうなものばかりが並ぶショーケースを覗き込むセドリックさん
パティスリーはすべて店内手作り

ショーウィンドウを彩るスイーツとは別に、セドリックさんの一番のお気に入りは「クラミック」というパン。ちょっとしたご褒美やおやつに、紅茶と一緒に食べるのが至福の時だとか。コーヒーは飲まず、断然紅茶派というセドリックさんのお気に入りはアールグレイ。幼少の頃からパリのサロン・ド・テ(ケーキなどを食べながらお茶をするところ)で、おばあさまとティータイムを楽しんできたそう。

「ここは2階のカフェもいいけれど、天気のいい日は3階のテラスがおすすめです。焼きたてのパンやお菓子を、温かい飲み物と外で食べるのは最高ですよ」

オー・メルベイユ・ドゥ・フレッド
住所/東京都新宿区矢来町107-2
営業時間/9:00〜19:00(不定休)
https://auxmerveilleux.com/ja/ 


木の温もりを感じさせてくれる店内

セドリックさんが神楽坂を散歩している時に、たまたま見つけ、季節に一度は訪れるという「喫茶 トンボロ」。店名の由来は、海中の障害物に砂が堆積する現象で、フランスのモンサンミッシェルに見られるような陸繋砂州りくけいさす=トンボロ(本土と陸繋島とを繋ぐ砂州)を指すイタリア語。様々な創作活動の傍らマスターを務める、多才な店主の平岡伸三さんが25年をかけて作り上げた空間で、ゆっくりとお茶を飲むのがセドリックさんの癒しの休日コースになっています。

「午後に飲むチャイが好きなんです。寒い季節はもちろん、夏でもホットがいいですね。私たち世代のフランス人は、氷入りの飲み物が得意ではないんです(苦笑)。ここはカウンター越しにコーヒーを淹れる様子を見られるのもいいですね。器や道具に全部愛着がこもっているのを感じます。私にとっての秘密の場所、隠れ家です」

セドリックさんお気に入りのチャイ

平日は近所の常連さんを始め、近くの出版社に来た作家と編集者の打ち合わせ場所に使われることもあるという店内。2種類のブレンドコーヒーはオーダーごとに豆を挽き丁寧にドリップされるので、芳醇なアロマが広がります。その豊かな香りはたまらず紅茶派のセドリックさんも深呼吸するほど。玄人好みのムードが漂うお店ながら、休日になると一転、客層はぐっと若返り、プリンやホットケーキなど手作りスイーツも人気のレトロカフェに。

取材時はフランスの音楽をBGMに出迎えてくれたオーナーの平岡さん。ステンドグラスの窓際に飾られた、オードリー・ヘップバーンのピンナップ(ピンで壁などに留めて飾る写真)をきっかけにセドリックさんと会話に花を咲かせ、フランスの名優たちを平岡さんがスケッチしたコラージュ作品をプレゼントしてくれる場面も。時間をかけて作り上げられた喫茶店らしい、奥ゆかしいおもてなしに和の心を感じるひとときでした。

喫茶トンボロ
住所/東京都新宿区神楽坂6-16
営業時間/11:00〜18:00(水・木 休)
https://www.instagram.com/tombolo_cafe/


「アルパージュ」神楽坂の路地に広がるフロマージュの芳香

外観もフランスにいるかのような雰囲気

東京に来てからすぐ、チーズの名店としてフランス人仲間に紹介されたのをきっかけに、かれこれ20年くらいセドリックさんが通っている「アルパージュ」。道に漂うチーズの香りに鼻腔を広げずにはいられない、路地裏の名店です。

オーナーの森節子さんが、多様なチーズを楽しむ中で心に残ったのが「山」のチーズだったことから、夏にアルプスの山々で放牧された動物のミルクから作られるチーズを意味する店名が付けられています。保存食として伝統的に引き継がれてきたチーズの原料であるミルクは、牛や羊、山羊たちがはむ草の豊かな土壌から生まれるという気づきなども「アルパージュ」には込められているそう。

フランスではディナー後にチーズを楽しむ人も多く、幼少期からレモンと同じくらい慣れ親しみながら食育されるそう。セドリックさんは、チーズにグリーンサラダを添えて、その後にデザートを食べるのが大好きだったそう。お酒を飲まずともバゲットと一緒に食べるのはもちろん、そのまま味わうのもたまらない! と目がないもよう。

店頭にはさまざまなチーズの種類が並ぶ

「街角で気軽に買えるフランスと違うので、日本では特別な時にチーズを買いに行きます。ここはクリスマスに行列ができる人気店。僕のおすすめは、セミハードの『ルブロション』と、スプーンですくって食べるほど柔らかい『モン・ドール』ですね」

日本にもファンが多い「モン・ドール」は、毎年8月15日から3月15日に生産され、9月10日から5月10日まで販売される期間限定アイテム。その他一年を通して季節感のあるチーズが並ぶ「アルパージュ」は、ネット通販も人気ながら、店頭に赴くのがセドリックさん流のショッピング。その場で好みの分量をオーダーし、紙で包装してもらうのが、切り立ての香りや味わいをそのまま楽しめる秘訣だとか。

アルパージュ
住所/東京都新宿区神楽坂6-22
営業時間/11:00〜18:00(日〜水)11:00〜19:00(木〜土)
https://alpage.co.jp/


「アコメヤ トウキョウ イン ラ カグ」美食家セドリックさんの必須アドレス

神楽坂駅近くにある「アコメヤ トウキョウ イン ラ カグ」

神楽坂駅の近くにある、ユニークな建築も目を引くライフスタイルショップ「アコメヤ トウキョウ イン ラ カグ」。「『アコメヤ トウキョウ イン ラ カグ』は自宅から近所のスポット。お米や食雑貨などが揃っているので、その素敵な商品をチェックしに行き、時間が合えば『アコメヤ食堂 神楽坂』でヘルシーな和食をランチするのが好きなんです」と、セドリックさんは話します。

アコメヤ トウキョウ イン ラ カグ
住所/東京都新宿区矢来町67
営業時間/11:00〜20:00(※アコメヤ食堂はL.O 19:30)
https://www.akomeya.jp/store_info/store/sinlakagu/

その他、神楽坂フレンチトーストやオーガニックティーが人気の「シマダカフェ」や、日本初のクレープリーとして人気の「ル ブルターニュ」は路地裏にあるメゾンの方がお気に入り。美食の街リヨンの郷土料理が楽しめる「ルグドゥノム ブション リヨネ」や新潟十日町の美味しい郷土料理を提供する「和菜 れとろ」もディナーにおすすめだそう。

日常使いするなら、神楽坂通りにある冷凍食品の「ピカール」やブーランジェリーの「ポール」。さらにメイン通りから少し足を伸ばせば、こだわりのバゲットやペストリーが好評の「パン・デ・フィロゾフ」や、カラフルなクロワッサンが”映える”と話題の「ル・コワンヴェール」に出会える喜びも。プチフランスならではのグルメ探訪ができる神楽坂は、路地を辿るほどに新たな発見があります。


「東京日仏学院」神楽坂にフランスの薫りを吹き込んだランドマーク

建築好きにはたまらない!? ユニークな螺旋階段

最後にご紹介するのは、およそ1世紀前の1924年に設立された財団法人の日仏会館が、1949年に東京都へ語学学校の開設を申請し1952年に開講した東京日仏学院。2005年から講師となり学内を知り尽くしているセドリックさんのお気に入りは、ル・コルビュジエ門下の建築家、坂倉準三さんが手がけた螺旋階段。

「とてもユニークでしょう? 唯一無二の建物が身近なのも神楽坂の魅力。東京日仏学院と同じく1950年代に建てられた登録有形文化財の『一水寮』も好きです。神楽坂の小さな路地にひっそりと佇む『一水寮』は、歴史的な雰囲気を感じることができます」

メディアテークでは幅広いジャンルの書籍を取り扱う

2023年1月にリニューアルオープンしたばかりのメディアテーク(図書室)で、フランス語や日本語の本を手に読書にふけるのもセドリックさんの大切なひととき。
 
「所定の手続きを踏めば、一般の方でも利用できますよ。ぜひフランス語の『ベルサイユのばら』を読んでみてください!漫画や雑誌、DVDなど大人はもちろん、子供向けも色々あります」

4月1日(土)には、敷地内でお花見イベントが予定されています。小鳥のさえずりが絶え間なく聞こえる緑あふれる庭で、フランス流のピクニックを満喫できる春の宴に参加できる機会をお見逃しなく!

東京日仏学院
住所/東京都新宿区市谷船河原町15
https://www.institutfrancais.jp/tokyo/ 

細い小路が見つかるのも、神楽坂の街歩きの楽しみのひとつ


人や自然、緑や歴史との「つながり」を感じられる街づくり

飯田橋駅周辺

今回ご案内した神楽坂の玄関口に位置する飯田橋駅周辺は、まちを訪れる人にとって、駅とまちをつなぐ、わかりやすく快適な歩行者動線や、ゆとりと賑わいのある広場づくりなど、近い未来に向けて様々なプロジェクトが進んでおり、その計画づくりにURも参画しています。
 
20年以上この界隈に親しんでいるセドリックさんがパリを感じるという石畳の路地は、雨のお散歩も情緒たっぷり。“エモ”なお店が軒を連ねる街は、訪れるたびに新たな発見が潜んでいます。ぜひ週末散歩のコースに加えてみてはいかがでしょうか?

フォトグラファー:梅沢香織
編集:福津くるみ
※「アコメヤ トウキョウ イン ラ カグ」と飯田橋周辺の写真は別途提供


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