大阪・うめきた地区がみどり豊かな場所へ。新スポット「うめきた公園」が誕生するまで:(第1回)「#街ものがたり」
近い将来、大都会・大阪に、「みどり」を楽しみに訪れる日がやって来るのかもしれません。
大阪駅北側に位置するうめきた地区。大阪随一の商業地区であり、大阪駅や梅田駅をはじめとする周辺駅の利用者数は、日本でも有数の多さを誇る巨大ターミナルです。
大規模開発で都市が変わりゆく「目的」
この地で始まった大規模な開発「うめきたプロジェクト」。1期地区の開発では、商業施設やホテル、オフィスなどが入った複合施設「グランフロント大阪」が2013年にオープンし、うめきたエリアに人の流れと賑わいを生み出しました。
そして来る2024年9月6日(金)、いよいよ2期地区の先行まちびらきが行われ、グラングリーン大阪の商業施設「グラングリーン大阪 ショップ&レストラン」がオープン。新たな商業施設や高層マンションにも注目が集まるなか、ひときわ話題となっているのが、開発地域の中央に整備された約4.5ヘクタール(約4万5千平方メートル)の「うめきた公園」です。
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「うめきた公園」は南公園(サウスパーク)とみどり豊かな北公園(ノースパーク)で構成され、ターミナル駅と直結する都市型公園としては世界でも最大規模。災害時には「広域避難場所」としての役割も果たすといいます。なお、先行まちびらきでは、サウスパークの全面とノースパークの一部が開園となります。
長年、ビルが立ち並ぶ大阪駅周辺にはひらけた空間がなく、災害が起きたときの一時避難場所の少なさが課題となってきました。この課題を解決するため、大阪の中心に広域避難場所としても機能する「うめきた公園」を整備することで、防災機能の向上を図ると同時に、都市の中心にみどりあふれる空間を創出することが2期地区の開発では大きな目的となりました。
UR都市機構(以下UR)は、この防災公園と周辺道路をつくる役割のほか、独立行政法人として開発に携わる行政と民間事業者のあいだに立ち、滞りなく開発が進められるようにする調整役を担っています。
今回は、開発当初からこのプロジェクトに携わり、先行まちびらきに向け奮闘し続けてきた、UR西日本支社の桑波田圭子と山口友輔に、「うめきた公園」が誕生するまでのストーリーを聞きました。
よいまちづくりに一番必要なのは「人」
うめきた2期地区の開発にあたり、工事の関係上、公園の周りの建物の建築が先に進められたため、着工が遅かった「うめきた公園」。すでにさまざまな民間事業者が現場に立ち入っているなか、公園の工事が始まったあとも、すべての事業者が滞りなく作業を進められるように、桑波田と山口は調整を積み重ねてきました。
桑波田:私が初めて現場に立ち入ったとき、公園ができるエリアは、先に工事に入っている事業者の資材置き場と化していて、「ここを一体どうやって公園にしていくのだろう?」と不安になるほどでした。でも、まちびらきをする日は決まっていて、工事を進めなければいけない。あとから入ってきた者として、施工者間調整をしていくのは本当に大変でした。
とはいえ、どこかの事業者がストレスを抱えている状態で無理に工事を進めることは良いまちづくりとは言えません。二人は定期的にほかの事業者を集めて会議を開き、施工をする上で、今どのようなことが課題になっているのかをお互いに確かめ、解決していく時間を設けたといいます。
桑波田:私たちURは独立行政法人で、行政と民間事業者のあいだに立つ役割を担わなければいけません。「我先に工事を進めるんだ!」という事業者がいるなかで、みんなをまとめて同じスピードで進んでいけるように、繰り返し話し合いを行ってきました。結局どれだけやりたいことや技術力を持っていたとしても、よいまちづくりに一番必要なのは「人」なんです。できるだけコミュニケーションを取って一体感を持たせること、それが私たちの大事な役割であり、強みだと思っています。
公園工事を進める中で変更点が生じたとき、その対応や周辺の事業者との調整をメインの業務として行ってきた山口も、公園以外で関わる事業者とどのように一体感を持たせるのか、試行錯誤することが一番苦労したと話します。しかし、調整役だからこそのメリットも感じていたそうです。
山口:公園のみで言うとおよそ4.5ヘクタールですが、2期地区全体ではもっと広い空間です。すべてが一体となってうめきた2期地区の開発を進めていくことが何よりも大切なことでした。例えば、公園の周りには道路や民間のビルがあります。それらが全く違うデザインだと、まちとして一体感がでませんよね。そのあたりの材料を合わせながら施工してもらうといった調整は骨の折れる作業でありながら、さまざまな方がいるおかげで色んな視点やヒントを得ることができたので、すごくメリットに感じていました。
また、調整を進める際、開発が終わったあとに実際に利用する利用者の目線に立つことを重要視していたそう。
山口:みなさん表現したいことはあると思うのですが、利用者をいかに想定してつくれるかが大事だと思います。最後に使っていただくのはそのまちの方々なので、その方たちにとってより良い公園やまちにすることを中心軸に据えて調整してきました。
数年にわたり、調整と工事を進めてきましたが、みどりあふれる公園がやっと姿を表し始めたのは、ここ数カ月のこと。どんな公園になるのか頭でイメージはできていても、目に見えないなかでの地道な作業はどれだけ不安だったことでしょう。
桑波田:公園以外の埋設管の調整や、排水工事をずっとやってきていたので、やっとここまできたんだなと最近になってようやく感じられるようになりました。感慨深いです。
「防災機能」を備えた公園をつくることが急務だった
URは、地元自治体の要請に応じ、災害に対して脆弱な構造となっている市街地で、周辺のまちづくりと併せて防災公園を整備する役割も担い、これまでも全国に数多くの防災公園をつくってきました。
大阪市では、大規模災害が発生したとき、大阪駅の周辺に7万8千人の帰宅困難者の発生が想定されていながら、周辺の施設ではその約半数程度しか収容できないことが長年の課題となってきました。
うめきた公園は、その広大な空間を活かし、災害時には一時避難場所として約3万4千人が避難できるように設計されているといいます。
桑波田:そもそも、大阪駅周辺にはみどりも少なければひらけた空間もほとんどありませんでした。買い物客からオフィスワーカー、旅行で訪れている人まで、みんなが集まるターミナル空間に「防災機能」を備えた公園をつくることが急務だったのです。
パッと見た限りでは、自然を感じられる美しい公園という印象ですが、一時避難者の滞留スペースとして活用できる平たんな広場を確保しながら、多数の一時避難者や緊急車輌の円滑な進入を考慮した入口、幅員設定が行なわれているといいます。
桑波田:実は公園内のいたるところに、非常用照明や防災スピーカー、災害用マンホールトイレや備蓄倉庫などの防災施設も配置しています。
しかし、どれだけ設備を万全にしていても「防災公園」であるという認識がまちの人に広がっていかなければ、機能しないも同然。周知のための仕掛けは、今後本格的にしていく必要があると話します。
山口:実験的に公園の工事現場を見学しながら、防災の知識を深めてもらう親子イベントを開催しています。開園後は、市や民間事業者が連携しながら、防災公園であるという認識を広げるための活動を継続的に出来ればと思います。
また、災害の種類が津波や洪水をともなう場合は、地形の関係上、逃げてはいけない場所にもなってしまう「うめきた公園」。災害の種類別にどの場所に避難することが有効なのか、今後市民とともに日常的に確認する時間が必要になっていきそうです。
日常的にみんなが関われる公園であることが大切
約4.5ヘクタールの広大な公園は、サウスパークは都市的な空間、ノースパークは自然豊かな空間として分けられています。駅直結の都市らしい賑わいを創出する空間から奥に進んで行けば行くほどみどりが豊かになっていくのがポイント。この設計の意図の中には、どんな人でも受け入れられる空間でありたいとの想いが込められていました。
山口:やはり、公園に必要なのは包容力だと思うんです。ただ自然を楽しみに来てもいいし、そこで開催されるイベントを見に来てもいい。周辺のオフィスで仕事をしている人が気分転換にテレワークできる場所になってもいいし、近所のおじいちゃんおばあちゃんが将棋をする場所であってもいい。誰のどんな活動も受け入れる場所である必要を考えたとき、同じ空間だけど日によって違った楽しみ方ができる公園にしたいと思いました。
桑波田は、目的なく歩いている人にとっても、偶然たどり着いて癒されるような場所であってほしいと話します。
桑波田:もちろん目的を持って来られるのもいいですが、例えば駅の周辺で買い物をして、そのまま歩いていたら公園になったというような、ふと気づいたら大都会から自然の中にいる、そんな体験をみなさんにしていただきたいと思います。目的のある人もない人も、みんなが居心地良くいられる場所であってほしいです。
山口:防災公園の観点からも、日常的にみんなが関われる公園であることが大切だと思っています。色んな人のことを想像してつくってはいますが、オープン後に利用者のみなさんが、一体どんなかかわり方をしてくれるのか、すごく楽しみです。
また、あえて高低差のある設計になっているのは、「ワクワクできる」というコンセプトに沿って、一気に見渡せてしまう空間ではなく、「次はどんな景色が広がっているんだろう?」と利用者に期待させるためでもあるそうです。
桑波田:これまで大阪の中心部でただ自然を楽しむような場所ってなかったと思うのですが、ワクワクしながら歩いてもらって、季節ごとの自然を楽しんでいただければと思います。
最後に、この「うめきた公園」の誕生をきっかけにお二人の思い描く大阪の未来像について伺いました。
桑波田:大阪にはずっとみどりが少ないと言われていたので、この公園をきっかけにそのほかの地域でも緑の整備が進んだり、自然を重視したまちづくりが広がっていけばうれしいです。
山口:私も桑波田さんと同じく、都市の中で自然を軸にした開発が進むモデルケースに「うめきた公園」がなっていけたら光栄ですし、この公園のみどりがいつか大阪のみなさんの誇りになるなら、それ以上にうれしいことはありません。
大阪がより身近な日常を楽しむ場所へ
仕事やショッピングなど、なにか目的がないと行ってはいけないようにも感じる、忙しいまち。これまで大阪梅田は、そんな日常とはかけ離れたような場所でもありました。
しかし、みどり豊かな公園がひとつあるだけで、たちまち印象は変わっていきます。誰のどんな活動も受け入れてくれる場所の存在は、きっと一瞬で大都会の喧騒から日常の穏やかな時間へと私たちを誘ってくれるでしょう。