見出し画像

学生と福島被災地域がつながるスタディツアー「キモチ、あつまるプロジェクト」を実施:(第6回)「#Interviews 現地を訪れ、私たちが感じたこと 」 

UR都市機構(以下UR)は、震災復興支援事業に取り組んでいます。東日本大震災の原子力発電所事故による避難指示が解除された福島県の浜通り地域では、住民の帰還に向けた復興まちづくり支援を進めてきました。浪江町、大熊町、双葉町と協定を結び、URがこれまでに培ってきたノウハウや技術力を活かすことで、復興の計画段階から新しい拠点の基盤整備、公的施設を建設する際の技術支援など、様々な復興まちづくり支援を行っています。
 
一方で、これらハード整備の支援だけでは、十分な復興まちづくりは達成されません。住民活動・経済活動の大部分が途絶えてしまった浜通りでは、地域に関わる“関係人口”を巻き込み、増やしていく、ソフト支援の取り組みも必要だからです。
 
URはこれからの未来を担う若い世代の方々に、復興に関心を持ち、行動するきっかけをつくってもらいたいという思いから、「キモチ、あつまるプロジェクト」を立ち上げました。
2023年の8月29日(火)~31日(木)、同プロジェクトの一環として、復興まちづくりに関心を抱く学生のみなさんに福島県へ来てもらう「ふくしま浜通り未来へのまちづくりスタディツアー」を実施。本記事では、ツアーのレポートとともに、携わった方々のインタビューをお届けします。

ツアーの全体像


全国の学生が福島被災地域を訪れ、現地の過去と今を知るスタディツアー

8月29日、全国各地から21名のツアー参加学生が、福島県大熊町の大野駅に集合。コミュニティや地域イベントの活動拠点「KUMA・PRE」でオリエンテーションが行われた後、浜通りでのビジネスの玄関口として設立された「大熊インキュベーションセンター」の見学、復興が進む「大川原地区復興拠点」の散策などを通じて、未来へ進みつつある町の姿を目の当たりにします。
 
一夜明けた30日の朝、一同は「東日本大震災・原子力災害伝承館」へ。約200点の資料を展示する同施設では、証言映像や模型を通じて、複合災害の被害を知ることができます。

東日本大震災・原子力災害伝承館を見学する学生

続いて向かったのは、震災遺構である「浪江町立請戸小学校」です。海の目の前に立地する同校は、大きな被害に見舞われながらも倒壊を免れ、全員が無事に避難した過去があります。窓ガラスや内壁が崩れ落ちた校舎の中、参加学生たちは津波の脅威を感じ取っていきました。

当時の様子を思いながら浪江町立請戸小学校を見学

その後学生たちは、東日本大震災の慰霊碑が建立される「浪江町営大平山霊園」へ。今回ご協力いただいたまちづくり会社の一つ、一般社団法人まちづくりなみえ(以下まちづくりなみえ)の佐藤成美さんより、震災当日の避難の様子などについて説明をしていただきました。

まちづくりなみえの佐藤成美さんに説明を受ける様子

被災の実態に触れた学生たちは、次に復興の最新事情を学ぶべく浪江町の棚塩地区を見学し、続いて双葉町の「双葉町産業交流センター」を訪れます。URが整備事業を支援する棚塩地区の産業団地は、水素エネルギーや無人航空機など最新技術の研究拠点です。貸会議室などが設置される双葉町産業交流センターは、浜通りで復興に携わる人たちの新たな拠点として機能しています。科学やビジネスの力で復興に向かう浜通りの今に、学生たちは強い興味を示してくれました。

双葉町産業交流センター

午後は、常磐線の浪江駅周辺へ。UR職員がこれから本格化する駅周辺地区の整備について解説しながら、現地を歩いていきます。その後、「浪江町ふれあい交流センター」では、自治体から委嘱を受けて地域ブランドや地場産品の開発・販売・PRなどを行う地域おこし協力隊でもある佐藤成美さんに、まちづくりなみえの取り組みや地域の課題について、自身のキャリアを踏まえながら説明していただきました。

浪江町でニンニク農家を営む吉田さやかさんのお話も、興味深い内容でした。吉田さんは、放射性物質を吸収しづらく、伝統的な食習慣に根付いていたニンニクをブランド化し、好評を得ることに成功。浜通り地域の活性化における新しい事例は、学生たちに未来を考えるヒントを与えてくれたようです。

ニンニクの出荷準備を体験する学生たち


学生が復興まちづくりを考える、ワークショップを実施

ツアー3日目のメインは、ワークショップでした。「復興のために、学生である自分たちには何ができるか」をテーマに、学生が主体的に浜通りの未来を考えていきます。

4つの班に分かれたグループワークではまず、2日間のツアー体験で感じたことを付箋に自由に記載し、模造紙に貼り付けていきます。それらをもとに、自分たちができることについてアイデアの種を増やすべく、ディスカッションを開始。「誰に?」「どんなことを?」「実現できたらどう変化する?」「5年後はどうなる?」と、具体的なストーリーに仕立てながらアイデアを広げたり、別のアイデアを組み合わせたりしていきます。そして最後に、発案されたアイデアの中から、学生として実現可能なものをピックアップ。今回のツアーにご協力いただいたまちづくりなみえや、同じくまちづくり会社である一般社団法人おおくままちづくり公社、一般社団法人ふたばプロジェクトの皆さま、UR、そしてツアー運営関係者の前でプレゼンテーションを行いました。

学生主体となって出し合ったアイデアを発表

アイデアの中には、「フェスで盛り上げる」「ユーチューバーを起用する」など若者らしい視点が盛り込まれる一方、「雇用こそが人を動かす」「医療へのアクセスが必要」といった、現実的な地域課題の解決策への提案も見られました。現地に足を運んだからこそ、決して絵空事ではない、リアルな構想が生まれるのでしょう。

最終的に発表されたのは、
<TEAM A>
URが運営する地域交流スペース「なみいえ」を、全国チェーンのカフェにする
<TEAM B>
「キモチ、あつまるプロジェクト」を継続化し、より多くの人の気持ちをつなげるストーリー
<TEAM C>
住民目線のディープなコンテンツを活用した、学生と地域をつなぐ新しいツール
<TEAM D>
サークルや部活のサッカー合宿を起点に、地元の人々と関わる仕組み
の4案でした。
各グループの個性が現れながらも、細かな実現策や期待される効果も考慮された、素晴らしいアイデアが集まりました。

各チームのアイデアマップ


ツアーを通じて変化した、復興と自分自身の関係

こうして3日間にわたり開催されたスタディツアーは無事終了。プログラムを通じて感じたこと、浜通り地域に対する想いについて、参加学生の一部の方に語っていただきました。

TEAM A~Dの学生メンバー

「浜通りには1年前に訪れたことがあったのですが、以前と比べても新しい建物が増えているなど、復興が急速に進んでいることを肌で感じました。新しく来る人々の住みやすさが重要である一方で、戻られた町民の方々が違和感を感じないような、地域の個性を生かす視点も欠かせないと思います。私の将来の夢は、福島と他地域の高校生が交流するツアーを企画することです。そのためには現地のことを深く知らなければならないので、今回のツアーは有意義でした」
文教大学国際学部3年 根本遥さん(埼玉県出身)

「原子力災害伝承館や請戸小学校で、地域の背景に触れられたことは大きかったです。私たちは『背景があるから、まちづくりがある』ということを、忘れてはならないと思いました。ワークショップを通じて感じたのは、復興だけではない、別の形で関係人口を増やしていくことの必要性です。今、学生である私たちにできることは少ないのかもしれません。それでも将来、参加学生が社会に出た時に、ツアーを通じた成長を証明できればいいと思っています」
学習院大学法学部政治学科2年 羽田千晴さん(東京都出身)

「私は福島県白河市出身で、地元のことを誇りに思っています。しかし震災以後、風評被害などによりネガティブなイメージを持たれてしまうことに、ショックを受けてきました。そんな私も相双地域(相馬地域と双葉地域を合わせた総称)を訪れたことは少なく、報道される復興の進度と現地の状況が異なることを、今回のツアーで感じました。一方で、現地の方の『もう私たちは被災者だと思っていない』という言葉は印象的で、私も前を向いて進んでいかなければならないと思いました。将来は福島をPRするような仕事に就きたいと思っています」
日本大学法学部公共政策学科2年 根本拓海さん(福島県出身)


新しい世代の人たちが、浜通り地域とつながり続けるために

今回のツアーでは、現地の復興活動に従事するまちづくり会社の方々にもご協力いただきました。浜通り地域でまちづくりに従事するみなさんからは、学生たちはどのように映ったのでしょうか。

「真剣に現地のことを知ろうとする学生が集まってくれました。私自身が移住者で、常に初心を忘れないことを心がけてはいるものの、学生さんの現地に対する率直な第一印象を聞くたびに、新鮮な気持ちになります。すごくありがたかったです」
一般社団法人おおくままちづくり公社 山崎大輔さん(千葉県出身)

「私は大熊町の出身なのですが、地元の現状を学生さんたちが正面から受け止め、自分たちにできることを考えてくれていたのが素晴らしかったです。今回のツアーはゴールではなく、スタートだと思います。みなさんには、これで終わりにせず、次のアクションへとつなげていってほしいです」
一般社団法人ふたばプロジェクト 小泉良空みくさん(福島県大熊町出身)

「私は現在24歳なので、学生さんたちと大きく年齢は変わりません。それでも彼らはまったく異なる視点を持っていて、刺激を受けました。ワークショップで出たアイデアは、現地のためになること、実現したいことばかりです。このような機会は継続していくべきだと感じました」
「まちづくり会社」 佐藤成美さん(福島県田村市出身)

最後に、URの職員として今回のツアーを担当した佐藤律基にも、プロジェクトに対する振り返りを聞いてみました。

UR都市機構 佐藤律基

UR都市機構 震災復興支援室 企画課
佐藤律基りき

「浜通りにおける学生参加型ツアーは、URとしても初の取り組みです。震災や復興に対する理解や向き合い方は学生さんによって様々で、どのようなプログラムにすれば全員にとって有意義なものとなるのか、不安な面もありましたが、つぶさに話を聞き、自分自身で咀嚼し吸収していく学生さんたちの姿を見て、心配はまったくいらないと感じました。

私たちの復興まちづくり支援には、多様な人々による新しい活動が欠かせません。学生さんたちが浜通り地域とつながりを持ち続け、自分には何ができるのかを考え続けてくれることで、ツアーは初めて成功といえるのでしょう。私自身も、一人でできることには限りがありますが、今回のプロジェクトのような、一人ひとりのちいさなキモチがあつまり、育まれるような営みに、より力を注いでいきたいです」

3日目のワークショップを終えて

参加学生、まちづくり会社の皆さま、住民の方々など、たくさんの関係者に支えられて実現した、ふくしま浜通り未来へのまちづくりスタディツアー。今回生まれた学生たちと浜通りの関係が、これからの復興まちづくりの種になることで、明るい未来は開かれていくのかもしれません。

「ふくしま浜通り未来へのまちづくりスタディツアー」に先立って、今年6月3日(土)、東京にあるクラフトビレッジ西小山にてその事前オリエンテーションイベントを行いました。こちらの記事でご紹介していますので、ぜひご覧ください。

取材・執筆:相澤優太
写真:示野友樹

この記事が参加している募集

この経験に学べ

この街がすき

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!