イケ・サンパーク―防災機能を兼ね揃えた賑わいのある公園へ:(第4回)「#Interviews まちづくりってどんな人が携わる?」
私たちの住む日本は自然災害が多く、防災に強いまちづくりを実現するために、全国的にさまざまな対策が行われています。中でも東京都は、防災都市づくりを実現するため、各区と連携して密集市街地の改善を推進しています。
密集市街地は東京都内でも各所にありますが、その中のひとつに豊島区の東池袋エリアがあります。
公園とまち全体を楽しめるまちづくり
豊島区は、1999年に財政破綻の危機が報じられ、2014年には東京23区で唯一「消滅可能性都市」と指摘されたこともあります。しかし、2020年には一転して「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」にダブル認定され、持続可能なまちづくりで他の都市をリードする存在にまでなりました。そのカギとなったのが、「公園を核としたまちづくり」です。
“まち全体が舞台の誰もが主役になれる”という「国際アート・カルチャー都市」を目指し、南池袋公園・中池袋公園・池袋西口公園をリニューアルし、としまみどりの防災公園を新しくオープン。クラシックコンサートや日本の伝統芸能、コスプレイベントなど日本が誇るアートやカルチャーを楽しみ、発信できるイベント行事を数多く開催してきました。また、4つの公園をつないで走る電気バス「IKEBUS」によってそれぞれの公園を行き来することもでき、公園とまち全体を楽しめる魅力的なまちづくりを行ってきました。
その4つの公園の中で一番新しい公園が、2020年冬にグランドオープンした「IKE・SUNPARK(イケ・サンパーク)」が愛称の「としまみどりの防災公園」(以下イケ・サンパーク)です。
「防災公園」の役割とは
イケ・サンパークは、サンシャインシティの東側に位置しています。一方で、周辺の東池袋4丁目、5丁目は戦前からの住宅地で木造住宅が多く、道幅も狭いため、ひとたび大地震や火災が起きると消防車が入れず、消火作業が滞って大災害となるおそれもある密集市街地でもあります。
イケ・サンパークが作られた場所には、もともと造幣局(硬貨の製造等を行う独立行政法人)の工場や博物館などがありました。この場所を防災に資する有効な空間にできないかと町会連合会の方々が中心となって、長年にわたり検討が進められ、造幣局の移転を契機に、密集市街地の改善策のひとつとして、2020年に防災公園として生まれ変わりました。
また、2023年9月には、「東京国際大学池袋キャンパス」がイケ・サンパークの隣に開校する予定になっています。
イケ・サンパークとまちづくりの関係
UR都市機構(以下UR)は、豊島区のパートナーとして長年、イケ・サンパークの整備を含む東池袋エリアの密集市街地の改善プロジェクトに参加しています。
今回、このプロジェクトを担当しているURの原島 直とイケ・サンパークの管理運営に関わる株式会社日比谷アメニス コミュニティビジネス運営部・豊島区立としまみどりの防災公園 管理事務所 所長の村田尭弘さんに、公園とまちづくりについて聞いてみました。
―まず、「密集市街地」について教えてください。また、改善するべく行っている活動について教えてください。
密集市街地とは、木造の建物が密集している地域を指します。そのような場所は昔ながらの風情があり、車ではなく人が中心のまちになっている一方で、狭い路地や老朽化した建物が多く、もし地震などの災害が起きた場合、複数の家屋が倒壊したり、火事が発生した場合には隣の家に燃え移り、広範囲に渡って火災被害が出てしまいます。路地が狭いと緊急車両が通ることができなかったり、倒壊した家に阻まれて逃げ道がなくなってしまうことも。そのため、東京都、そしてここ豊島区は、密集市街地の改善に力を入れています。
豊島区では、道路の拡幅をして緊急車両が通れるようにしたり、老朽化した住宅から防災性の高い住宅への建て替えを促進するなどの取り組みを行っています。URは豊島区からの要請に基づき、東池袋においてまちづくり用地の取得、土地・建物共同化の検討支援や密集市街地整備事業に協力した方の受け皿となる賃貸住宅の建設・運営等を行うことで、豊島区と一体となって各種プロジェクトを進めています。
―2020年に誕生した防災機能を持つ「イケ・サンパーク」ですが、防災機能という面で具体的にどのような役割を担っているのでしょうか?
この公園の広さは1.7ヘクタールほどで、豊島区内最大の面積です。中心には広大な芝生が広がり、敷地内にはカフェやおしゃれな小型店舗もありますが、実は非常時にはこの芝生にヘリコプターが着陸できるようになっていて、最大で約9,000人程度が避難可能、さらに救援物資集積拠点として区内各所の避難所に向けた物資の搬送を行う役割を持っています。
それだけでなく、応急給水施設や貯水槽、防災井戸のほか、備蓄倉庫や非常用発電機、炊き出し用のかまどが格納されたベンチなど、避難所に必要なあらゆるものが備えられている機能的な公園です。公園の周りには密集市街地が隣接していることもあり、燃えにくいとされるイチョウやシラカシの木を植えることで、延焼を防ぐような工夫も施されています。
―イケ・サンパークに隣接し、20代後半から30代前半の メンバーが運営・支援を担う、東池袋のまちづくり拠点「ひがいけポンド」とURとの関係性についても聞かせてください。
「ひがいけポンド」は、URが密集市街地の改善のためにもともと問屋として使われていた『ポンドビル』という建物を買い取り、暫定利用として、地域の皆さんの交流の場として使ってもらうためにリノベーションしました。1階は主にポップアップスペース、2階はシェアオフィスとして使っていただいています。現在は運営を株式会社キアズマさんにお願いし、同社のメンバーと毎月打ち合わせをしつつ、気づきや新たな動きをシェアしながら、将来的なまちづくりを検討しています。
ひがいけポンドでは、まずはURと地域の皆さんとの関係を築こうというところからスタートし、もともと町会のイベントだった餅配りや縁日などのイベントを行ってきました。毎週水曜日には「よろずや」という八百屋さんに出店していただいています。この八百屋は地域の皆さんにも好評で、幅広い年齢層の方々が利用してくださるようになりました。
最近では2階のシェアオフィスを使ってくださる方が、互いに協力して1階のスペースでオフラインイベントを開催したり、1階に出店したりと、だんだんとこの場所を通じてコミュニティが形成されるようになりました。
ひがいけポンドには近隣にお住まいのご高齢の方も来てくださいますが、20代から30代のエリア周辺の若い人たちにも積極的にスペースを利用していただけるようになりました。
―まちづくりに携わるにあたって重要だと思うマインドや考え方はありますか?
「まちづくりは人づくり」とよく言われますけど、まちづくりは決して一人でできるものではなく、長く時間がかかるものなので、まちに興味がある人を増やしていくことが大事だと思っています。
そのためには、自分が住んだり働いたりするまちに少しずつ興味を持って関わってくれる人が増えたらいいなと常々思っています。ひがいけポンドがこうなったらいいな、から始まり、この周辺地域がこうなったらいいなと派生していくことによって、自然とまちづくりが進んでいくのではないかなと思っています。
―今後東池袋において、どういうまちづくりを目指しているのでしょうか? 取り組んでいきたいことを教えてください。
イケ・サンパークという防災公園ができ、都電荒川線を車道と歩道が挟む補助81号線の道路拡幅事業が進む中、イケ・サンパーク南側には密集市街地が残っているため、防災性の向上を一番に考えながら、生活の便利さと落ち着きが同居する東池袋の特徴を活かしたまちづくりを地元の皆さまと豊島区と一緒に進めていきたいと思っています。また、ひがいけポンドで生まれたコミュニティや活動を継続し、発展させていきたいと思っています。
公園を通して住民の方々と繋がっていく
―イケ・サンパークは防災公園という機能を持ち合わせつつ、同時に「暮らし」と近い公園であることを掲げ、イベントの開催やコミュニティ形成のきっかけになる場づくりなどが行われていますが「ファーマーズマーケット」や「コト・ポート」のねらいを教えてください。
イケ・サンパークはそもそもできたばかりの公園ということもあり、まずは地域の方々に公園を知ってもらうこと、そして定期的に通ってもらうこと、加えて防災公園だということも知っていただくことが重要だと考え、毎週末「ファーマーズマーケット」や「コト・ポート」など何かしらのイベントを開いて、まずは来ていただく方が増えるように努力しています。
―「公園から街が変わる。公園が街を守る」というように、公園という場所がキーワードになっているイケ・サンパークは、まちづくりにおいて非常に重要な役割を担っているように思います。こういった公園のあり方や使い方に対して、地域の人びとや出店者の方々からは、どのような声がありますでしょうか?
もともとこの公園があるエリアは住宅地なので、地域の方は公園に日常使いを求めて「日常の静けさや穏やかさを壊さない公園を作ってください」と言われることが多いです。
出店者の方々からは、地域の人の顔が見えるからいいと好評をいただいています。ここでの出店は出店者と住民を繋ぐ最初の一歩であって、出店をきっかけにお客さんがオンラインで継続的に購入してくれることも多く、出店してよかったという声をいただいています。
―イケ・サンパークが重要なコミュニティ形成の場として確立していくために、どのような仕掛けやアイデアをこれから考えていく予定ですか?
周辺に住んでいる方々と、働く方々のアプローチは分けて考えています。公園がオープンしてからは、主に周辺に住んでいる方々との接点を積極的に作ってきました。公園を管理する側が一方的に活動をしていると思われないためにも、2カ月に1度近隣の方々と公園のあり方や使われ方について意見交換をする協議会を開いてコミュニケーションを取っています。
一方、働く方々である近隣事業者さんとのつながりも大事にしています。ここは住宅地も近いですが、同時に駅やサンシャインシティといった商業施設にも近いので、区や商業施設的には賑わいを作りたいといった思いもあるかと思います。近隣事業者さんはこの公園とまちの人々を大事に思ってくださり、さまざまな物資を寄贈してくださっています。
たとえば、公園にある黒い机や椅子はサンシャインシティさんが寄贈してくださったもので、机に「Dear Ikebukuro」(サンシャインシティさんが掲げる「豊島区・池袋を良くする活動」を象徴するキーフレーズ)のロゴがあります。ほかの近隣事業者さんも同じロゴを入れたファイルや芝生で使えるラグマットなどを寄贈してくださっています。こうした企業様の思いも大切にしながら、少しずつ公園と住民の方々、そして事業者さんとが繋がるイベントや活動をしていきたいと思っています。
―まちづくりに携わるにあたって重要だと思うマインドや考え方はありますか?
私たちは公園運営の事業者として「循環」「コミュニティ」「スタートアップ」と理念を持っていますが、同時にそのまちの特徴や歴史を学びつつ公園運営に活かしていくことが大切だなと感じています。
ただ、区の都市政策と住民の方々の意見も双方ありますので、それらが偏ることなくマッチしていけば、持続可能なまちと公園の関係は築いていけるのではないかと思っています。地域の方との関係を築く草の根活動は大切だと思いますし、住民の方々からこの公園が好きだというお声をいただくととても嬉しく、やりがいを感じます。
原島さん、村田さん、ありがとうございました! 災害から身を守るためにも、そして持続可能なまちづくりのためにも密集市街地の改善は欠かせません。私たちは今後もこのプロジェクトをまちのみなさんと一緒に進めていきたいと思っています。