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「渋谷駅前エリアマネジメント」が描く21世紀の渋谷像(第2回・前編):「#Interviews まちづくりってどんな人が携わる?」

100年に一度の都市再生を進めている渋谷エリア。2012年に開業した「渋谷ヒカリエ」を皮切りに、2018年に「渋谷ストリーム」を、2019年には「渋谷スクランブルスクエア」と「渋谷フクラス」など、続々と新たなランドマークが誕生しています。より便利に進化する駅では、JRをはじめ、各私鉄や地下鉄、バス乗り場の移設工事や整備も行われています。

行政と民間が一緒になって取り組んでいる一大事業で、2015年に設立された一般社団法人「渋谷駅前エリアマネジメント」は、東急株式会社、東急不動産株式会社、独立行政法人都市再生機構の3社が事務局となって運営しています。同法人は「遊び心で渋谷を動かせ。」をスローガンに掲げ、様々な活動を行っています。今回は鼎談ていだんを実施し、これまでの取り組みや未来へつなげたい思いなどを聞き出しました。

<東急不動産株式会社>
横山 大輔
都市事業ユニット 渋谷開発本部 広域渋谷圏戦略グループ 課長補佐

<UR都市機構>
荻野 瑛子
東日本都市再生本部
事業企画部 事業企画第1課

<東急株式会社>
角 揚一郎
渋谷開発事業部 開発計画グループ 課長

(各者の所属部署などは取材当時のものです)

渋谷のまちづくりに携わって2年になるUR都市機構の荻野 瑛子

ー各自が従事しているエリアマネジメントのほか、渋谷のまちづくりで担っている役割を教えてください。

荻野:100年に一度といわれる大改造が進む渋谷駅周辺で、URは東急さんと共に10年以上にわたりこのまちの基盤整備(土地区画整理事業)に取り組んでいます。他にも渋谷二丁目西地区では、2029年度の完成を目指して再開発事業を推進していて、東京建物さんと共に参加組合員として事業に参画しています。また渋谷駅からは離れますが、渋谷区内では本町地区の木造住宅密集地域の改善に向けて、渋谷区と連携して木密エリアの不燃化促進事業を推進しています。

横山:東急不動産は、“Greater SHIBUYA 2.0”という名称で、渋谷駅から半径2.5キロメートルを含めた、恵比寿・表参道・青山というところも含めたエリアでデベロッパーとして不動産の開発というところと、建物だけではなくコミュニティ作りや情報発信など、ハードとソフト両方の面でまちづくりをしています。

角:私は東急株式会社で、開発事業部の開発計画という部署の担当になります。エリアマネジメントの他、渋谷駅周辺の緊急整備地域で開発全体に関わる調整ごと、区長からのご相談等、渋谷における官民連携での社会課題の解決やエンタテイメント事業のサポート等を担当しています。

ーみなさんにとって、渋谷はどのような場所ですか?

渋谷駅前エリアマネジメント事務局で運営グループ長を務める角 揚一郎さんは、
8年に及び渋谷のまちづくりに携わる

荻野:私にとって渋谷は「非日常」な場所ですね。中学生の頃は友人とクレープを食べに来たり、洋服を買いに来たりしました。20歳を過ぎてからはお酒を飲みに来るようになり、渋谷の新しい楽しみ方を知りました。渋谷駅で降りると、今でもワクワクする気持ちになります。
 
横山:私は地方出身なので、仕事を始めてから渋谷と関わるようになりました。そこで改めて観光以外のところを掘り下げてみると、すごくおもしろいところがいっぱいあるまちだなと実感しています。仕事で会う人も「渋谷で何かやりたい、挑戦したい、どうせやるなら渋谷で」という声をよく聞くので、皆さんの力を感じます。遊びにしても働くにしても前向きな方が多い印象です。

角:私も大学生になってから上京したのですが、学生時代は渋谷にはほとんど来ませんでしたね(笑)。当時は渋谷で売っているレコードを買いに来ることが目的で、昔からあるディスクユニオンや特別な盤が見つかるジャズのお店はなじみがありました。渋谷は大衆的なイメージがありますが、横山さんがおっしゃったように何かに挑戦したいというような意欲や、ここから生み出そうとする力を私たちは大事にしたいと思っています。

ー渋谷の再開発を日々見る中で、特に興味深い点や渋谷が変遷する風景をどのように感じていますか?

渋谷のまちづくりに携わって5年になる、東急不動産株式会社の横山 大輔さん

荻野:今まではファッションや若者の文化が渋谷に訪れた来街者によって発信されている拠点だと思っていましたが、最近はIT企業やスタートアップの拠点など、新たに働く層が渋谷に集まってきていると感じます。あらゆるビジネスの創造拠点になりうると思っています。

横山:建物に関しては「100年に一度の大開発」ということで、日に日に工事が進んでいって、動線がどんどん変わっていっていることを、この開発に関わっている側としてもすごく感じています。5年前には渋谷スクランブルスクエアもフクラスもストリームもなかったので、刻々と変わっていくまちの様子に驚いています。

角:ゆくゆくは、乗り換えや利用のしやすい駅になるように開発を行なっているのですが、今は乗り換えなどの動線に悩まれる方がいらっしゃるのは申し訳ないと思っています。エリアマネジメントという業務の中で、皆さんがストレスを感じにくく移動しやすくなる案内など、もっと改善点があるなと日々感じています。

ースローガン「遊び心で渋谷を動かせ」に紐づくプロジェクトとして実現した事例や、やりがいのあったプロジェクトを教えてください。

YOU MAKE SHIBUYA COUNTDOWN 2018-2019

角:今は社会課題を解決するようなことを多く担当していますね。どちらかというと、マイナスをゼロにする仕事が多いのが実感です。その中で唯一言えるとすれば「プロジェクションマッピング」でしょうか。新しい行政のガイドラインを作成するときに協力させていただき、その実証実験として渋谷の年末カウントダウンイベントの際に実施しました。任天堂さんと電通さんにご協力いただき、遊び心は満点だったと思います。渋谷パルコができる直前で、海外からの渡航者向けのマナー啓発にもご協力頂きました。他には、2019年11月のオープンから今もみんなで取り組んでいる、渋谷駅東口地下広場ですね。URさんをはじめ渋谷区や東京都、警視庁にも協力を仰ぎ、エリアマネジメント団体が主導することで、バスの定期券発売所を設置しました。「来街者ファースト」で何かを考えてみんなで一緒にやる、ということを成功させた一例かと思います。

SHIBUYAまちびらき2019

横山:渋谷スクランブルスクエアやパルコ、フクラスが開業した時に“SHIBUYAまちびらき2019”を担当したのが思い出深いですね。路上音楽が規制されている渋谷で、行政から許可をとって公式の路上ライブを実施しました。出演者を公募したところ、若手のインディーズ系の方々など300組くらい応募があって、その中から6組に実演してもらいました。その時に渋谷のパワーを改めて感じましたね。規制されているからできないことを、様々な課題をクリアしながら、その日はできた、という取り組みはやりがいがありました。新型コロナウイルス感染症の影響でイベントがなかなかしづらくなってしまったのですが、最近また復活していますね。東口地下広場で去年のクリスマスに音楽イベントを開催したり、今年も新たなイベントを企画したりしています。渋谷が音楽で溢れるまちになると、訪れる人も嬉しいと思うので、そういう仕組み作りができたらいいなと日々画策しています。

しぶやをつくるゼミ

荻野:私はまだ2年目なのでお二人に比べて実績は少ないのですが、NPO法人シブヤ大学と「渋谷駅前エリアマネジメント」の共同で行っている「しぶやをつくるゼミ」をメインで担当しています。一般の方を対象に、グループに分かれて「渋谷でやってみたいこと」をテーマに企画を考えるというゼミです。参加者から渋谷の新しい楽しみ方や渋谷を見る視点を教えてもらったのは興味深く、エリアマネジメントの担当として色々な方のニーズを知ることができて勉強になりました。原点に立ち返って、どんなイベントだったら参加してもらえるのかを、考えることができました。

ー先生を務めている荻野さんをはじめ、横山さんと角さんも「しぶやをつくるゼミ」に毎回出席されています。ゼミ生との関わりで、新しく発見したことや得たことはありましたか?

荻野:ゼミ生の中にはスクランブル交差点の真ん中で蕎麦を打ったり、四股を踏んでみたりしたい、という夢を持っている方がいて大胆な発想には驚かされました。ゼミには10代から60代まで老若男女問わず、幅広い方にご参加いただいているのですが、渋谷だからこそできると思っている方が多く「渋谷はいろんな人に可能性を持たせている場所なんだな」ということを改めて知ることができました。まちづくりの会社に所属している身としては、色々な方の身に寄り添って、まちづくりをしていかなければと身が引き締まる思いです。

横山:一般的にまちづくりをする時は官・民・地元連携といった形で進めることが多いのですが、来街者や渋谷育ちの方に参加してもらうことで、知らなかったことを色々教えてもらえましたね。自分たちが思っていた以上に、渋谷に対する思いを感じることができたのも面白かったです。一般の方がまちづくりに参加するという好奇心や探究心を、エリアマネジメントという仕事を通して、新しいアイデアにつなげていけたらいいなと思っています。

角:渋谷に詳しい方々との出会いで得ることがたくさんありますね。前回は僕たちより詳しい再開発マニアのような方がいらっしゃったり、設計や土木のことに詳しい技術系の方がいらっしゃったり、思いもかけない刺激を受けました。私は法的なことばかり携わっているので、みなさんの「好き」が聞けるのは大きいですね。今回のゼミでは、他でまちづくりをされている方が参加されるなど、だいぶ濃いめな「渋谷愛」を感じることができて嬉しいです。

ー仕事ではないからこそ見つかる自由な発想に出合えるのは得難い体験ですね。ゼミやこれまでの活動を通して、まちづくりに携わるにあたって重要だと思うマインドや考え方がありましたら、教えてください。

大規模な都市再生が進む渋谷駅周辺のエリアマネジメント担当として共に活動している3人

荻野:人との会話を楽しむことが一番なのかな、と思っています。行政や民間の事業者さん、地域の皆さんなど、いろんな方々が関わるまちづくりという仕事の中で、時に想いをぶつけ合いながら、時に寄り添いながら、意見に耳を傾けることによって、まちづくりが実現していくと実感しています。だからこそ人との会話を楽しみ、まちに対する思いを吸い取りながら、仕事をしていきたいなと思っています。

横山:私も荻野さんと重複する部分がすごくありますね。まちづくりは一人の人間や会社だけではできないもので、いろんな人と合意形成をしながら進めていくものだと思っているので、広い視野や視点が大事だなと思っています。自分とは違う考え方でも聞き入れるのはもちろん、今はいいけど将来的には違うかもしれない、そういうビジョンもしっかりと持つことが必要ですね。

角:できないと思わないこと、でしょうか。あとはまちを歩くこと。小さな変化に気づくためには 自分の目で見るしかないので、なるべく違う道を歩くようにしています。そこで見たいろいろなことが今の仕事の助けになっていることが、実は結構多いんです。常に新しいことに挑戦していく、それが正解かどうかは分かりませんが、続けていくことが今の変わりゆく渋谷には必要なのかなと思って取り組んでいます。

ーコミュニケーションを重ねていくことや異なる意見も聞き入れること、常に新しいことに挑戦するなど、エリアマネジメントという仕事以外でも実践したいことばかりですね。では最後に、渋谷の都市再生という一大事業を通して、これからの世代に繋げていきたい思いがあれば教えてください。

荻野:ゼミを通して、渋谷でやりたいことを様々な世代から教えてもらう中で、もっと渋谷で活動していく文化が根付いていくんじゃないかなと実感しています。再開発後は渋谷にさらに人が集まってきて、交流や活動が増えていくと思うので、ゼミのように渋谷について語ることができる場所を継続させていきたいなと思います。

横山:渋谷の特長は、みんなが集まって新しいものを作っていくエネルギーであったり、それらを発信したり、そういうものを持っているおもしろい人たちが集まることだと思います。将来的に若い世代がプレイヤーとして活躍できるよう、まちの特徴を作って発信して循環していけたらいいなと思っています。

角:正解がない仕事ではありますが、今回のゼミで皆さんがやりたいこと、試してみたいことなど、いろんな話を聞く中で、人が渋谷に来る理由をたくさん作ることが使命なのかなと思っています。渋谷だからできることや文化の流れが途絶えないように、形を作っていくのが、これからの世代に残していく必要があることなのかなと思っています。

角さん、横山さん、荻野さん、貴重なお話をありがとうございました! 後編では、NPO法人シブヤ大学と「渋谷駅前エリアマネジメント」の共同で行っている「しぶやをつくるゼミ」についてレポートします。

写真:梅沢香織
編集:福津くるみ

後編はこちら▼

渋谷駅前エリアマネジメントの活動の様子はこちら(渋谷駅前エリアマネジメント公式Instagram)▼