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福島の再生に、関わり続ける人を増やしていく。学生が被災地を訪れる「スタディツアー」の軌跡:(第2回)「#街ものがたり」

URでは福島浜通りにおける復興まちづくりの一環として、2024年8月に学生が原子力災害被災地域を訪れ、地域再生のあり方を考えるスタディツアー「キモチ、あつまるプロジェクト」を実施しました。本記事ではUR、学生、地域の方々の声とともに、ツアーの様子をお届けします。


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一人でも多くの人に、浜通りに興味を持ち続けてもらうために

東日本大震災から13年。地震や津波に加え原子力災害の被害を受けた福島県浜通り地域には、今なお多くの課題が残されています。その一つが、一度は人口がゼロになってしまった地域における、復興まちづくりです。

URでは、まちの大部分が帰還困難区域に指定された浪江町、双葉町、大熊町を中心に、復興まちづくりの支援を進めてきました。プロジェクトの一員を務めるのが、災害対応支援部の佐藤 律基です。

佐藤URでは現在、新しいまちの基盤をつくる復興拠点や建築物の整備事業支援に加え、まちに賑わいを取り戻すソフト面の支援にも尽力しています。浜通り地域では避難指示の解除が進んでいるものの、実際の居住人口はごくわずかです。地域を再生させるためには、町外に避難された方々の帰還や新たな方の移住により、人口を増やすことが理想ですが、ハードルが高いのも事実。そこで私たちは、“関係人口”という考えに着目してきました。

“関係人口”とは、教育やビジネス、文化交流などを通じ、まちの外にいても継続的に地域と関わりを持つ人のこと。「一人でも多くの人に、浜通りに興味を持ち続けてもらうことが大切」と、現地で復興支援に従事する東北震災復興支援本部の島田 優一は、地域の実情を打ち明けます。

島田:特に難しいのは、関係を持ち続けてもらうことです。浜通り地域では震災復興への関心から、一度は足を運んでいただける方が比較的多いのですが、その後も関係が維持されるケースはそう多くないといえます。地域活動のサポートなどを通じ、主体的に興味を持つ人が増えれば、新しい可能性が生まれる。たとえ少しずつでも着実に、そこから状況が変わっていく。そう考えています。私たちがアプローチしているのは、そうした交流が生まれる場づくりです。

左:災害対応支援部 佐藤 律基 右:東北震災復興支援本部 島田 優一

こうした背景から企画されたのが、「キモチ、あつまるプロジェクト」です。この取り組みでは、学生が浜通り地域を訪れる「スタディツアー」を2023年より開催。2回目となる2024年は、8月28〜31日の4日間に渡って実施されました。

佐藤:ツアーの目的は、全国各地から学生を募り、現地の実情を見てもらいながら、さまざまな地域の方と接することです。交流の時間を充実させたかったため、昨年度の行程より1日増やし、今年度は3泊4日にしています。1日ごとにコンセプトを決め、4日間を通じて浜通りへの理解を深めるよう、緻密に行程を企画してきました。

こうして当日を迎えたスタディツアーには、23名の学生が参加しました。プロジェクトが目指す“キモチ、あつまる”は、どのような形で実現されるのでしょうか。ここからは4日間の軌跡を追っていきます。

現地を巡り理解する、震災と復興の本当の姿

ツアーの初日。学生たちは、13年前の震災について理解を深めました。

東日本大震災・原子力災害伝承館の展示に目を潤ませる学生

参加学生はまず、地震や原発事故の被害を約200点の資料で伝える「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪問。複合災害の実像を、その目で受け止めていきます。その後に訪れた福島県内唯一の震災遺構「浪江町立請戸小学校」では、津波被害を受けながらも倒壊を免れた校舎を視察。発災当時の状況が残る教室に対し、「現実の出来事とは思えない、映画のセットにいるよう」と、胸中を明かす学生もいました。

震災遺構「浪江町立請戸小学校」。見晴らし台には高さ15mを超える津波到達点が表示されている

今回のツアーより追加されたのが「中間貯蔵施設」の視察です。同施設の役割は、除染作業で発生した土壌等を、最終処分までの間に貯蔵すること。放射性廃棄物が浜通り地域に残る現実とともに、農産物や海産物への安全対策など、学生たちは正しい知識を身につけていきます。

また、夜に開催された懇親会では、浜通りで花酵母を使用したお酒造りに取り組むIchido株式会社の渡邉 優翔さんから提供いただいたカクテルが振る舞われました。
県内で300年以上続くツツジの観光農園を営む家庭に生まれた渡邉さん。浜通りの復興を支援する中で、地域の資源である花の新たな楽しみ方を創りたいと、花とお酒を組み合わせたビジネスを始めたといいます。

中間貯蔵施設を見学

一夜明けた2日目、この日のコンセプトは浜通りの“今”を知ること。URの復興まちづくりが、どのように進んでいるかを見学します。訪れたのは、
浪江町、大熊町、双葉町のURが復興まちづくりを支援している地区。UR職員の説明を受けながら、学生たちは変わりゆく街並みを巡ります。未来に向かう工事と、随所に残る震災前の建物や看板。その光景が、学生たちの関心を引きつけました。

また、URが運営する浪江町の情報発信・交流スペース「なみいえ」や大熊町の地域活動拠点「KUMA・PRE」を始め、双葉町の「産業交流センター」など各地区の復興拠点も訪問。各所では地域でまちづくりに奮闘する方々によって現在の取り組みが紹介されます。現場で生じる困難や自身が活動を始めた経緯など、個人目線のリアルなエピソードも共有されました。

佐藤:震災遺構はもちろん、ほとんどが更地である浜通りの光景は、地域外の学生にとって衝撃だったはず。一方で町営住宅や工業団地などは、目まぐるしく変化しています。まちの本当の姿を見てもらおうと、ツアー前半の行程を企画しました

夕方には、産業交流センターで開催された飲食交流イベント ちいさな一歩プロジェクト 9歩目「ふたば飲み」にも参加。この日は地元音楽イベント「ふたばの声(おと)」も開催され、子どもを含む地元の方々が歌や踊りを披露するなど、お祭りさながらの大盛況ぶりでした。まちの皆さんの元気な姿に、学生の表情も笑顔に変わります。

ステージでダンスを披露した地元アーティストにあわせて踊る一幕も


復興を進める若い世代と学生たちの出会い

ツアー3日目は、今回の大きなポイントとなる、現地の方々との交流です。まず、学生たちはキウイ栽培の再生に挑む県外出身の原口 拓也さん、阿部 翔太郎さんに出会います。

阿部さんに熱心に質問する学生

阿部:大熊町にはフルーツガーデン関本(旧関本農園)という、100年つづくキウイ農家がありました。関本さんの指導のもと、地元の方々が年間売上1億円という目標に向けてキウイ栽培に励んでいたのですが、達成を目前に発災。皆さんの想いを込めたキウイが栽培できない実情に、私たちは大きな衝撃を受け、起業を決意しました。株式会社ReFruitsは持続可能なビジネスとしてキウイ栽培に挑んでおり、除染による地力の低下などの課題を乗り越えながら、ブランド力の向上に努めています。試行錯誤の結果、ようやく苗木を背丈ほどにまで成長させられました。

当日はあいにくの天候で圃場内の見学は難しかったものの、「大熊インキュベーションセンター」で学生たちは同年代であるお二人の話を真剣に聞き入っていました。その後は、浪江町に移動。ニンニク農家を営む株式会社ランドビルドファームの吉田さやかさんにお話を伺います。

吉田さんの家は明治から続く農家でありつつ、戦国武将を模した騎馬武者が甲冑で行軍する伝統的な祭典「相馬野馬追」に参加してきた家系でもあります。そうした伝統を守るためにも、“ニンニクの栽培”を決心したそうです。

「相馬野馬追」でまとう甲冑を前に、学生たちは吉田さんのお話を興味深く聞いた

吉田:実家で飼育する馬の堆肥を使い、放射性物質を吸収しづらいニンニクを栽培すれば、伝統を守れるかもしれない。戦国武将が好んだニンニクとカツオの食文化が、今も浪江に受け継がれています。こうしたさまざまな点が、自分が農業をすることで、線となって結びつくことに気づいたんです。農業経験はほとんどなかったのですが、「サムライガーリック」というブランドでニンニクを育て始め、少しずつ皆さんに応援していただけるようになりました。

続いて訪れたのは、浅野撚糸株式会社の工場「フタバスーパーゼロミル」。この日工場を案内してくれた広報担当の子安 結愛華さんは、双葉町に移住した一人です。

子安さんによる浅野撚糸株式会社の歴史に耳を傾ける

子安:私たち浅野撚糸は、双葉町で「交流人口300万人」という目標を掲げています。震災前、双葉町の人口は約7,000人だったのに対し、現在の居住人口は100人程度。地域を活性化するためには、観光や視察・研修を通じた人の呼び込み、外部企業の進出も有効です。交流人口を増やしながら、当社も双葉から世界へ進出することで、まちを元気にしたいと思っています。

3つの町でそれぞれの活動に取り組む人々。熱量のある話に対し、参加学生は活発に質問するなど、関心の高さが窺えました。

佐藤福島の復興にはさまざまな方が関わっていますが、一つの特色として若い世代が活躍していることが挙げられます。特にReFruitsの阿部さんや浅野撚糸の子安さんは、参加学生と同じ世代。学生にとっては等身大の目線で復興を考えられる、有意義な機会になったのではないでしょうか。


「同情を共感に変えていきたい」「遠くにいても関係を築ける」

学びを書きだす学生。各チームで活発な議論が交わされた

ツアーを通して理解を深めた後は、いよいよワークショップです。3日目の夕方、参加学生は5つのチームに分かれ、これまでに学んだこと、感じたこと、素朴な疑問を共有。それらを書き出し、テーマをまとめて発表します。「被害の大きさが想像以上」「きれいごとだけでは解決できない」「キウイ・ニンニク栽培における土の問題など、現場に行かなければわからないことが多い」「そもそも“復興”は何がゴール?」など、リアリティのある感想が集まりました。

そして最終日となる4日目は再び同じチームで集まり、「福島の魅力を活かすために、私たちができること」を探っていきます。「伝統がある」「豊かな自然」「若者が増えている」「地域への想いが強い」など、率直な意見を交わす学生たちの表情は、真剣そのものでした。

グループワークを終えた後、各チームは「私たちにできること」を発表。おおくままちづくり公社の岩船 夏海さん、福島と東京で活動するtoten. 共同代表の川上 友聖さんらを前に、プレゼンを行います。

自分たちのアイデアを発表する学生。チームごとの個性が光った

発表では、
・参加学生の同窓会によって関係を継続する取り組み
・全国各地で参加学生が開催するニンニクやキウイなどの物産展
・地元の学生がまちづくりのプロセスを残す学生新聞
・おしゃべり感覚で魅力を拡散する“#友達の友達効果”
・他地域に避難した方々に対し、福島のレストランや料理体験を届けるイベント
など、ユニークなアイデアが提案されました。

またプレゼンでは、それぞれの想いも語られました。「私たちがツアーで感じたように、災害や人口流出など深刻な課題について、同情を共感に変えていきたい」「ニンニク農家の吉田さんのお話を聞いた時、遠くにいても心と心で関係を築けることに気づけた」など、現地ツアーに参加した学生ならではの視点が共有されます。

講評を務めたURの島田は、学生の発表内容に、ツアーの手応えを感じたようです。

島田グループワークやプレゼンを聞いて感じたのは、「自分の住む地域や大学に戻ったら何ができるか?」「自分が福島と関わり続けるためには、どんな方法がいいか?」と、主語が「自分」だったこと。「自分ごと」としての視点には主体性と現実性があり、学生の皆さんが明日からでも実現可能な企画が考えられていたため、頼もしいと感じました。

ワークショップの最後には、参加学生がツアー中にスマートフォンで撮影した写真を、スクリーンに投影。各自がストーリーを語り、4日間を振り返りました。それらの写真は「キモチ、あつまるプロジェクト」のInstagramアカウントで公開予定です。


初めて訪れた浜通りで、視点を変えた学生たち

ツアーを終えての記念撮影。笑顔の学生たち

ツアーに参加した学生たちは、福島浜通り地域に対してどのような想いを抱いたのでしょうか。学生3人にインタビューを行いました。3人とも、浜通りを訪れるのは初めてだったといいます。

「ツアー中、なるべく多く地域の方と話そうと心掛けていました。私が強く感じたのは、皆さんが複雑な気持ちを持ち合わせていることです。現地で生きる人と接すると、さまざまな感情が伝わります。内なる想いが色濃く出ている点に、浜通りの強さを感じました。最初は地域を興味の対象として見ていましたが、さまざまな人と出会ったことで、今は『ここで活動をしたい』と思うようになっています
東北大学 理学部 奥山彪太郎さん(東京都出身)

「東日本大震災をテレビで見た日以来、『いつか福島に行かなければ』と思っていました。最初に驚かされたのは開発のスピーディーさです。その一方で、変わりゆく街並みに寂しさを感じる地元の方の声を聞き、プラスの側面しか見てこなかった復興事業への考えも変わりました。ツアーを通じて抱いた想いは、家族や友人にSNSではなく、対面で温度感とともに伝えます
広島工業大学 環境学部 石井沙也加さん(広島県出身)

「まちでは新しいプロジェクトが始まっており、移住者も増えていることを知って、福島へのイメージが変わりました。まちづくりというと住宅やインフラを想像しがちですが、住んでいる方が楽しんだり、他地域の方と触れ合ったりする場所も、大事なのだと気づかされました。より多くの方の話を聞きたいので、可能であれば来年1年間休学し、浜通り地域で暮らしたいと思います
甲南女子大学 文学部 井上七海さん(大阪府出身)


一人ひとりが感じたことを、身近な人へと伝えてほしい

こうして「スタディツアー」は無事に終了。プロジェクトを企画したURの二人は、4日間にわたるツアーを振り返ります。

佐藤:私たちが進めるソフト支援は、人の交流の“場”をつくること。今回のツアーのポイントは、この“場”に対し、学生が意味を見出すことでした。浜通りには、震災の過去と復興の進むまちの姿、長きにわたって育まれてきたまちと人との関係性など、さまざまな文脈があります。そこに学生ならではの眼差しを向け、まちづくりの姿を見つめ直してほしい。そうした想いは、4日間で実現されたと思います。また、まちに関わりたい人への公的サポートもありますし、こうした関わり方の入口を発信していくべきだと、改めて気づくこともできました。

島田:現在、浜通りには復興の力になりたい人や、情熱を持って何かに取り組む人が集まってきています。そうした方々と学生が交流できたことは、一つの成果です。また、次のアクションを起こしてくれそうな学生たちが多かったのも印象的でした。これは簡単なようで、とても難しいことです。ツアーを通じてホットな思いを持っている学生たちが、今後も福島に関わり続けてくれるように、引き続き積極的にアプローチしていきたいと思っています。また、学生が発信力を活かし、今回感じたことを他の人にも伝えることで、福島に興味を持つ人が増えることに期待しています。

震災復興の現場には実に様々な課題があり、URは現実的な解決に一つひとつ取り組んでいます。島田は「私たちも来年以降の施策を含め、“関係人口”の裾野を広げるためにできることは何か、今後も議論していきたいと思います」とも語りました。

以上、2024年度の「キモチ、あつまるプロジェクト」で実施された「スタディツアー」のレポートをお届けしました!


今回のツアーの様子は他メディアでも発信していますので、ぜひこちらもチェックしてみてくださいね。

■テレビ番組「ふくしま浜通り 未来のまちづくりを考えよう」
 福島放送 10月19日(土)9:30~10:00
 東京MX   10月26日(土)20:00~20:30

■Webメディア「朝日新聞SDGs ACTION! 」

■YouTube動画

取材・執筆:相澤優太
写真:示野友樹