薬院~徒歩圏内に魅力あふれる店が集まる、感度の高い大人の街~(第9回)「#エモ街」
懐かしくて新しい“エモ”な街を巡る連載「#エモ街」。9回目となる今回は、福岡市中央区薬院を訪れます。
大規模再開発を続々展開。活気と魅力に溢れる福岡
九州最大の繁華街、アジアの玄関口として多彩な顔をもつ福岡市。現在は、「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」など、市内各所で大規模再開発が進行中。先進的なビルや魅力的なオープンスペースが続々と誕生し、新たな街づくりが加速しています。
そんな市街地の魅力が高まる一方で、福岡市中央区といえば、福岡県内で住み心地ランキング1位になるほどの暮らしやすさ抜群のエリア。職住近接で行きつけの店もすぐというコンパクトさが特徴です。また、中心部から一駅離れるだけで別の街のような落ち着いた雰囲気に。緑豊かな公園や川が点在していたり、歩道の街路樹や花壇が四季を感じさせたりすることも。散歩しながら、都心部には珍しい個性豊かな個人店を巡る楽しみもあるのが、福岡市中央区の長く愛される理由です。
緩やかな時間が流れる、天神から一駅の薬院
そんな中央区のなかでも、住み心地の良さや、さまざまなお店が集まることで人気のスポットとして知られている「薬院」。ここは、奈良時代に吉備真備が太宰府に赴任した際に、この辺りに薬草園を開き、施薬院(薬草を使って治療をするところ)をつくったことに由来する地名です。高級住宅街としても知られる「浄水通り」があり、都市部ながら緑の多い落ち着いた雰囲気のある場所でもあります。
また、市民の移動手段のメインとなる西鉄電車や西鉄バス、福岡市地下鉄の駅すべてが揃う主要駅を擁し、博多駅や福岡空港までのアクセスも良いエリアです。
そんな薬院駅周辺には、UR都市機構(以下UR)が手がけた住宅もあります。2005年に福岡市西南部と都心部を結ぶ地下鉄七隈線の開発と併せて、URの市街地再開発事業の中で整備した、都市型賃貸住宅「アーベイン薬院大通駅前」が竣工。薬院駅の隣駅である地下鉄薬院大通駅直結の利便性と、スーパーや医療施設、高齢者施設などの生活サービスが充実した住まいを提供しています。
薬院といえば、生活雑貨店「B・B・B POTTERS」をはじめ、古家具屋の「TRAM」「eel」など、福岡を代表するインテリアショップが軒を連ねる場所でもあります。そして、個人経営の多種多彩な飲食店も建ち並び、ハシゴするのもおすすめ。今回は、そんな薬院にある素敵なお店を紹介していきます。
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地域の厚い信頼を集める「花匠」
最初に紹介する「花匠」は、創業の1985年から天神や中洲の繁華街にある飲食店のディスプレイを手がけてきたお花屋さんです。
「先代の父と母が、車でさっと繁華街に配達に行ける場所ということで、薬院を選んだと聞いています」と、話すのはオーナーの宗慎太郎さん。現在、当時はほとんどなかったという薬院界隈の飲食店やショップのディスプレイなども手がけています。「あの店に飾られたお花が素敵だったから」と、食事や買い物帰りに自宅用の花や植物を見に立ち寄ってくれるお客さんも多いのだとか。
宗さんの考える薬院の特徴とは、「ハイソな街」と「下町っぽさ」ふたつのイメージをあわせ持つエリアだということ。今も昔も別荘地と言われる平尾や浄水、赤坂や大濠エリアと肩を並べる富裕層向けの店が多いなか、個人経営のカフェやパン屋、雑貨店などカジュアルな店が続々と新しくオープンしています。
「薬院は、ジャンルを問わず落ち着いた感じの店が多いです。それぞれに個性があり、流行りばかり追いかけていないところも良いですよね。ただ一方で、若者がもっと興味をひくような先進的な店づくりと、入りやすいオープンな店も増えてくれたらいいなと。そうしたら、今以上に薬院がにぎわって、憧れられるエリアに育つ気がします」(宗さん)
朝と夜で“表情”が変わる「金時-黄土」
次に紹介するのは、2023年4月にオープンした手巻き寿司をメインとした和食店「金時」。1979年創業の老舗の名店「吉冨寿司」の姉妹店です。お店の担当者に薬院を選んだ理由を聞くと、「交通アクセスに優れており、バラエティに富んだ店舗が多い。中心部に最も近い住宅街でもあり、幅広い年齢層の人が暮らすところに惹かれました」と話してくれました。
当初は夜の営業のみで計画していましたが、もっと幅広い層が来店できるようにと、夜と全く違うコンセプトで昼もやってみようとなったのだとか。そこで昼営業は「黄土」と店名を変え、ヴィーガンの人も楽しめるファラフェル(ひよこ豆のスパイスコロッケ)の専門店をスタート。自分でピタパンにいろんな具材を好きなようにサンドして食べるランチプレートを提供しています。福岡では珍しいファラフェルも自分で作るスタイルも新鮮で反響を呼び、オープンするやいなや、ソーシャルメディア上で一躍大人気メニューになっています。
お店の担当者は、「昔から、エリアに同じようなテイストのお店がいくつかあれば自ずとそこに人が集まり、良い街ができると言われています。薬院には、わざわざ足を運んでもらえるような店舗が集まっています。自分たちの店も、そこにある店と時間を重ね育っていき、良い街を担う存在になりたいですね」と話します。確かに、薬院には今ある素敵なお店を目掛けて連鎖反応的に新しい店を出す人が多く、街の良い循環が生まれているのかもしれません。
カウンターのあるお店で、店主と客、客と客同士の距離も近いのがこちらの魅力。自身もお酒好きと語る店主の福里舞さんは、お客さんと一緒に薬院のいい店について話し込むことも多々あるといいます。シメの2軒目もすぐ近くで案内してくれるそうなので、ぜひおすすめを参考にしてみてください。
本格的なスイーツとお酒を気軽に楽しむ「L&L DAIRY」
最後に紹介するのは、「金時-黄土」から徒歩1分にある、2023年9月にオープンしたばかりのカフェ&ダイニング「L&L DAIRY」。食事からスイーツ、本格的なお酒まで様々なメニューを休憩なく提供し、いつでも気軽に使えるお店です。
「L&L DAIRY」の運営会社である株式会社エンターキーの担当者は、市街地の再開発で人の流れに変化を感じるなか、2、3年で目まぐるしく変化する天神や大名よりも、10年後くらいに良い変化と変わらぬ良さがどちらもありそうなエリアとして薬院を選んだといいます。
また、ジャンルを問わずこの土地で古くから店舗を営む人たちや、友人たちの流行を知りつつも自分たちのスタンスを大事に集客する姿も魅力とのこと。「薬院には、地元の人もあまり知らないような良い店や、新しくできたおもしろい店など素晴らしいところがたくさんあります。ぜひエリアをまわって遊んでもらえたら、より一層楽しめると思います」(担当者)
本格的なスイーツが揃うので、客層は女性客が多め。普段使いもさることながら誕生日や記念日によく利用されています。また、店舗を持たない人気のパフェ職人「marais」がプロデュースするメニューを常に味わえる店ということで、パフェを目当てに来る人も。パフェは時期によってメニューが変わるので、来るタイミングによって違った味が楽しめるのもうれしいポイントです。
「L&L DAIRY」をオープンする際は、近隣店舗との親和性を大切にしたそうです。例えば、お店の向かいにある家具屋「NEST」を象徴するデンマークの照明ブランド「Louis Poulsen」のウォールライトや北欧の家具を積極的に採用。向かいあう店の窓からの眺めで何かが似ていて、互いのお客さんが気になって相手の店を覗くこともあるようにと、内装にも工夫を凝らしています。
食事とともに、インテリアにも注目してゆっくりとした時間を過ごしてみるのもおすすめです。
「舞鶴公園」にオープンした新スペース
そんな薬院エリアからそう遠くない赤坂と大濠公園のエリアには、福岡城跡がシンボルとして知られる「舞鶴公園」があります。春にはお城の石垣に桜の花が彩りをそえ、美しい風景が広がり、市民にも愛されている場所です。ここに、2023年10月、市民の安全を守るべく防災機能をもった新たなエリアがオープンしました。
これは、市民の憩いの場である「舞鶴公園」の東端にあった高等裁判所などが移転し、生まれた跡地・城内地区を福岡市の要請を受けてURが整備。この事業は、URが「九大六本松キャンパス」跡地の市街地整備事業と一体的に進めたものです。
「舞鶴公園」の東側は九州随一の繁華街である天神に近く、災害時はその天神から避難する人々の一時避難場所として利用可能。今回整備した地区のそばには、よく知られた避難所である市民センターや中央体育館、小中学校があり、これらと連携することでより一層の安全な暮らしが守られていきます。
今回紹介した薬院エリアから少し足を伸ばして、自然豊かでゆっくりとした時間を過ごせる「舞鶴公園」にも、是非足を運んでみてはいかがでしょうか。