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福島浜通りの復興を、学生が共に考える。「キモチ、あつまるプロジェクト」プレイベントを開催:(第11回)「#Interviews まちづくりってどんな人が携わる?」

UR都市機構(以下、UR)は2023年に続き、福島の復興を支援する「キモチ、あつまるプロジェクト」に取り組んでいます。2024年8月には、学生が原子力災害被災地域を訪れ、地域の人々と関わる「スタディツアー」を実施予定です。ツアーに先立って6月1日には、都内でプレイベントを開催(オンライン配信も実施)。学生たちが復興支援への理解を深める機会として、パネルトークや座談会を実施しました。


プロジェクトの担い手たちは、復興やまちづくりとどのように向き合っているのでしょうか。本記事では、プレイベントのレポート、登壇者へのインタビューをお届けします。

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ハード面の整備とともに、URが進める地域再生支援

2024年6月1日、東京都中央区の朝日新聞東京本社にて、今回のプレイベントは開催されました。会場参加とオンライン配信の両方で行われた同イベントには、総勢150人近くの学生が参加。冒頭ではUR職員の佐藤 律基があいさつし、URが行う地域再生支援について説明しました。

UR都市機構 佐藤 律基

佐藤:原子力災害の被災地域に当たる福島県の浜通り地域では、大熊町、双葉町、浪江町およびその周辺の多くが、帰還困難区域となりました。現在は徐々に避難指示が解除され、住民も少しずつ戻ってきている状況ですが、震災前の水準には程遠い状況です。こうした背景から、URは三つの支援を行っています。新しいまちの基盤をつくる復興拠点の整備事業支援、建築物の整備事業支援、まちに賑わいを取り戻していくためのソフト面の地域再生支援です。本日のプレイベントは、三つ目の地域再生支援の一環。学生の皆さんと一緒に、福島の復興を考える機会にしたいと思います。

続いて、現地で復興支援に従事する、UR職員の島田 優一が、ソフト面の地域再生支援の重要性について語りました。

UR都市機構 島田 優一

島田:大熊町、双葉町、浪江町は、人口が一時“ゼロ”になった地域です。「戻りたくても戻れない」「人が町内に入れない」という状態からの地域再生は、容易ではありません。生活基盤や住宅等の整備は欠かせませんが、建物が建てば人が戻ってくるとは限らないのです。ハード面と並行し、帰町促進、地域の担い手発掘、コミュニティーの形成、地域の外からの人の呼び込みといったソフト面からのまちづくりも必要になります。

こうした地域再生支援の取組みの中で、大切な要素の1つが“関係人口”です。関係人口とは、ある地域と何らかの形で繋がりを持ち、その地域と多様な形で関わる人のこと。例えば別の地域に住んでいても、福島浜通りと行き来しながら関わりを持つ人を含みます。

URは福島浜通りの関係人口を増やすべく、地域の魅力的なコンテンツを活用しながら、URが福島浜通りに持つ拠点や町内の施設を舞台とした浜通りの外から人を呼び込むイベント、URが首都圏に持つ団地や拠点等を活用した浜通りの産品や浜通りで活躍する人(プレイヤー)を発信するイベント等、様々な取組を進めてきました。

パネルトーク時の会場の様子


学生の“やりたい”に応えてくれる温かさが、浜通りの魅力

パネルトークでゲストとして登壇したのは、toten. 共同代表の川上 友聖さん(以下、発話者名は敬称略)。大熊町と双葉町を拠点に、学生時代から地域の活性化に取り組んできた経験から、現地でのエピソードや復興のポイントについて語ってくれました。

toten. 共同代表 川上 友聖さん

川上:私たちtoten. は、学生団体として活動をスタートしました。地元の人たちの思いやエピソードを集める“語り”の収集、企業や大学など地域外の団体を福島とつなぐ活動、首都圏在住の学生に被災地の現状を知ってもらう展示会など、さまざまな活動にチャレンジしています。

浜通りには、復興に当たり強みとして生かせる魅力がたくさんあります。例えば、外部から来た人たちの「やりたい」という思いに応えてくれる、地元の方々の温かさ。また、震災以前から育まれてきた、地元の伝統や文化などです。「ゼロからの再生」というと、何もないところから始めるまちづくりを想像しがちですが、もともと地域にあった価値観や魅力に目を向けることは重要です。それらを学んだ上で、自分たちができること、やりたいことを考えると、復興が形になっていくのではないでしょうか。

イベントではその後、スタディツアーの説明、登壇者を交えた参加学生との座談会(会場参加者のみ)を実施。浜通りに対するイメージや、今日から自分ができることについて、活発に意見が交換されました。

3グループに分かれて行った座談会の様子と参加学生の集合写真


復興支援活動を通じ、見えてきた本当のまちづくり

イベント終了後、島田と川上さんに、現地での活動内容や浜通りへの思いについて、語り合ってもらいました。

―復興に携わるようになった経緯、二人の関係性を教えてください。

川上:私は神奈川県出身なのですが、祖母が浜通りの出身、叔父が原子力発電所に勤務していたんです。小学生だった震災当時、親族が実家に避難してきて、きょうだいや知人が亡くなった話を聞きました。「祖母が大切にしていた故郷は、どのような場所なのだろう」と関心を抱くようになり、浜通りに初めて行ったのは、大学1年の時。以来、toten. の活動を開始し、伝統文化の継承に取り組む団体さんとコラボしたお祭り「双葉まるごと文化祭」を企画したり、地元の音楽祭のサポートをしたりと、できることから復興支援に携わってきました。 

島田:新卒でURに入社し、福島浜通りの復興支援を担当するのは今年で2年目です。福島と首都圏を往復しながら、現地での地域再生支援業務、首都圏での関係人口を増やすための情報発信・イベント企画などを行っています。川上さんとは、震災前の大熊町の名産品であるキウイフルーツの再生に取組む「おおくまキウイ再生クラブ」の活動でご一緒しました。浜通りの復興に携わる人は、横の結びつきが強くて、みんな顔見知りなんです。

―去年のスタディツアーを経て、今年はどのような企画を進めているのでしょうか。

島田:昨年のスタディツアーは、復興拠点や震災遺構、展示施設の視察をしながら、地元の方々の話を聞き、最後にワークショップを行う3日間のプログラムでした。多くの学生が参加したことは初年度として成功だったのですが、学生たちがツアー終了後も継続的に福島を訪れるかというと、まだまだ課題はあります。そこで今年は、もっと地域の方々との接点を増やそうと行程を調整しており、日数も1日増やす予定です。現地で復興に携わる人の中には、学生と同世代のように若い人も多く、刺激や感銘を受けやすいはずです。少しでも深く、多くの人と交流できるツアーにしたいですね。

川上:浜通りでは、生活基盤を避難先の地域に移した住民の方々が多いです。そうした方々に再び地元に戻ってきていただくこともそうですが、新たな人に移住してもらうこともハードルが高い。だからこそ、地域が好きだったり、興味があったりするから携わる、もう少しライトな関係性も大切にしなければなりません。そうした意味で、純粋な興味からアクションを起こす学生の存在は大きいと思います。フットワークが軽くて「何かしたい」「地域のことを学びたい」という気持ちがあれば、初めて福島を訪れるような学生でも必ず力になれます

島田:福島に限らず、災害や過疎化を背景に、今後は全国的にも地域支援が必要になるでしょう。むしろ東日本大震災によって、日本が忘れていた問題が表面化したのかもしれませんね。私たちが関係人口を増やすノウハウを蓄積できれば、他の地域にも応用できるとも思っています。

―実際に、関係人口はどのようにして増えているのでしょうか。

島田:先ほどお話しした「おおくまキウイ再生クラブ」でのエピソードが一つのモデルケースとして分かりやすいと思います。大熊町に訪れた首都圏と関西の2人の学生(当時)が同クラブ活動に参加し、そこから大熊町に足しげく通って活動に参加するようになったんです。最終的には、2023年10月にReFruitsという株式会社を設立し、町内で本格的なキウイ栽培を始動しました。浜通りの外から関心を持ってくれた学生が、関係人口として大熊町に関わり続け、最終的には地域に入り込んで担い手となった特徴的な出来事だと思っています。

また、この2人がいたからこそ、彼らに関わりのある人も大熊町に足を運ぶことにつながり、新たな関係人口が生み出されています。関係人口を生むには、魅力的なコンテンツが地域にあることも大切ですが、面白い「人」や思いを持った「人」がいることが重要であると身をもって感じています。

川上:toten. の活動をきっかけに、継続的に双葉町と関わるようになった学生も増えています。自分の行動が誰かに認められて、価値になる感覚を、浜通りでは実感できるんですよね。地元の方々がオープンで、第一歩を踏み出しやすい環境であることも大きいのでしょう。

島田:浜通りで活動をしていると、その場で起こっていること全てが自分ごとになります。主語が自分になるからこそ、より想いをもって取り組むし、その結果、地元の人々が喜ぶと自分にも力が湧いてくる。一人ひとりの自分ごとという意識が積み重なることで、復興は進むのかもしれません

―プレイベントの手応え、「キモチ、あつまるプロジェクト」に懸ける期待を教えてください。

島田:プレイベントは、スタディツアーの説明も目的の一つでしたが、ツアーに参加しない学生にも復興を考えるきっかけを提供したい、と考えていました。オンラインの参加者は昨年の2倍近くになっており、関心の高さがうかがえました
 
川上:座談会で私が担当したグループには、まちづくりに興味がある学生が多かった印象です。自分のやりたいことを見つける大切さを伝えたのですが、それは地域の方との共通言語を持つためでもあります。例えば自分が関心を抱く農作物について、自分の目線から魅力を伝えると、地域の人々との会話は活発化します。そんな主体的な視点を持つ学生が多いことを、プレイベントでは感じました。今年のツアーには私も参加しますが、どのような出会いが生まれるか、今から楽しみです。
 
島田:浜通りのことを全然知らない学生もいたのですが、現地で活動している人の話を聞き、会話の中で興味が膨らんでいったことは、プレイベントならではの効果だと感じました。また、ニュースを見るだけでは知ることのできない現地の様子や雰囲気を、学生に知っていただけたのも良かったと思います。浜通りに関わる最初の一歩として今日のイベントが機能し、具体的なアクションにつながれば、開催した意義は大きかったと思います。

―皆さんが思う、まちづくりに携わるに当たって重要なマインドや考え方を教えてください。

川上:双葉町役場の方に言われた、「同情じゃなくて、共感してほしい」という言葉を、今も大切にしています。もちろん原子力災害という社会的な文脈がある以上、同情がきっかけとなる人も多いのかもしれません。でも、地元の人が本当に求めているのは、楽しいことや悲しいことを共感した上で、意見を交換できる関係ではないでしょうか。私はよく皆さんとお酒を飲む機会がありますが、対話の中で喜怒哀楽を共にするから、共通言語も増えていくのだと感じてきました。

島田:私は地域の方々と同じ視座に立ち、同じ熱量をもって取組むことを大事にしています。私はURの仕事で浜通りを初めて訪れたのですが、地元の皆さんはいわゆる「よそ者」の私を、温かく受け入れてくれました。そんな温かさに触れると、自分の中の熱量も高まり、当事者意識を持ってまちづくりができるのだと思います。地域の方々と同じ目線に立ち、地域の方々の思い、チャレンジを一つひとつ形にしていくことで、自立・自走できるまちづくりを目指していきたいです。
 
いよいよ始動した2024年度の「キモチ、あつまるプロジェクト」。8月に開催される「スタディツアー」では、学生、地域の方々、川上さんやURが共に、福島・浜通りの未来づくりを考えます。現地レポートの様子は秋頃にお届けする予定です。皆が共感し合い、対話を通じてアイデアを育んでいく。復興支援の新たなカタチにご期待ください。

取材・執筆:相澤優太
写真:示野友樹