鹿沼~自然との距離感が心地いいスタイルのあるショップ巡り~:(第5回)「#エモ街」
懐かしくて新しい“エモ”な街を巡る連載「#エモ街」。5回目となる今回は、栃木県鹿沼市を訪れます。
都心とのアクセスが良好な鹿沼市
鹿沼市は東京から北へ約100kmに位置し、東部は県都宇都宮市、北部は国際観光都市である日光市に隣接するまちで、人口約92,000人、中心市街地からは山々が見え、豊かな自然と居住空間がちょうどよく調和しているまちです。
また、東武日光線やJR日光線、東北自動車道鹿沼ICを有し、国際空港などへの高速バスが運行するなど、都心とのアクセスも良好。リモートワークもすっかり普及した昨今は、鹿沼に住んでリモートワークをしながらたまに東京へ出社するというハイブリッド通勤をしている人もいるようです。
鹿沼市の名物といえば、「鹿沼今宮神社祭の屋台行事」。華麗な彫刻を施した20台もの囃子屋台が練り歩く圧巻のお祭りは、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている歴史的伝統行事です。もうひとつは、「いちご」。鹿沼市は全国有数のいちごの産地でもあり、2016年に鹿沼市は「いちご市」を宣言しています。
そんな魅力あふれる鹿沼市では、近年若者を中心にリノベーションなどによる起業が増加するなど、この地の歴史や文化を地域資源として生かすまちづくりの機運が高まりつつあります。特にここ最近では今宮神社周辺地域におしゃれなカフェや飲食店、複合施設などができるようになり、まちの人はもちろん、市外や県外から来るお客さんも増えて、少しずつ新しい賑わいが生まれています。
今回は、今宮神社周辺地域のリノベーション店舗の出店が進む「銀座通り」をはじめ、周辺の「根古屋(ねこや)路地」「末広町通り」エリアから、注目のスポットをいくつかご紹介します。
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「ネコヤ堂菓子店」おいしいパンとキュートな雑貨がそろう
鹿沼市役所からほど近い、住宅地の一角。通りから一本奥へ入って少し歩くと、「根古屋路地」と名付けられたかわいらしい路地があります。
大人二人が並んで歩くのがやっとなほど細い路地ですが、そこにはセンスのいいカフェや雑貨店が並び、隠れ家的雰囲気になんだかわくわくする素敵な裏路地エリアです。
その路地にある赤い窓枠が目印の「ネコヤ堂菓子店」です。
木材の温かみが心地いい店内には、動物や自然のイラストがあしらわれたかわいらしい雑貨や文具がたくさん。中にはもともとデザイン会社に勤務していたという、店長の矢島舞さんが自らデザインしたというアクセサリーのほか、レジ近くにはふっくらと焼きあがったおいしそうなパンも。
「もともとこの辺りでカフェを数件を運営し、鹿沼のまちづくりにも参加しているオーナーの風間にこの路地でコーヒーを飲んだり、雑貨を買ったりすることができたらいいなという構想があって、その話を聞いて意気投合し、とんとん拍子でオープンまでこぎつけました。開店当時はちょうどコロナ禍の2021年10月。それでも迷いは一切ありませんでした。自分でお店をやる方が向いていると思っていたので」と、生き生きした笑顔で語る矢島さん。
路地全体の雰囲気や各店舗の世界観の魅力もあり、テレビや雑誌に取り上げられることも多く、平日のランチタイムや休日は駐車場が埋まってしまうほどの人気ぶりだそう。
「お客様もそうですし、並びの店主たちにも県外から移住してきた人が多いんですよ。私はこのまちに10年以上住んでいるんですけど、このまちには移住したいと思える魅力があるんでしょうね。まちから山々が見えるし、人々が昔の文化を大事にしながら新しいことを始めているところが好きです。鹿沼今宮神社祭の屋台行事をみんなで守っていくのもそうだし、新しく事業をやる人は昔からの建物を壊さずにリノベーションして事業を展開したり。このまちにでき始めたそういう流れを、わくわくしながら私も見守っています」と、話してくれました。
お店の軒下にはちょっとしたカフェスペースも。同じ路地にある「日光珈琲 饗茶庵本店」で飲み物がテイクアウトできるので、パンと一緒に楽しんでみては?
「Center」アーティスト二人による宿泊可能な複合施設
今宮神社のすぐ近くには、「銀座通り」があります。ここは、かつて多くの人でにぎわったまちのメインストリート。大きな呉服店の跡地や古い蔵が建ち並んだりと、昔ながらの趣を感じさせる、まさに“エモ街”スポットです。
この銀座通りも、都会から移住してきた人たちによる店舗が増え始めてきたエリアの一つ。この地で宿泊やイベントスペースを展開する「Center(センター)」を営む田巻真寛・河野円夫妻も東京から移住し、2022年8月に店舗をオープンしました。
歴史を感じさせる昔ながらの建物をリノベーションし、1階はイベントスペースに。アパレルやライフスタイル雑貨など気鋭のアーティストたちの作品も並んでいます。2階では広々とした空間を生かし、宿泊施設を展開。内装作業には自分たちも加わり、ミニマルで現代的なテイストに仕上げました。
もともとは東京で会社員をしながらアーティスト活動をしていたという夫妻。東京以外の場所で、互いの表現活動ができる場所を探していたときに見つけたのがここ鹿沼の地だったそうです。
「鹿沼には自然の美しさはもちろん、古い建物が残っているし、観光地化されてない良さがあるのが気に入っています。自分たちのまちだと感じられるサイズというか、ちょうどいい人との距離があるし、ほどよい大きさだからまちを俯瞰してみられる。それが自分たちの表現活動につながっている部分がありますね」と話す、副センター長の田巻さん。2人とも東京にいる時から海外のアーティストとの交流があったため、ここでは海外のお客様も多く訪れるといいます。
「ここ数カ月で海外からのお客様が増えてきました。デザイナーや画家のお客様も多く、少しずつ私たちの表現するものやテイストが理解されてきている感じがします。この夏も、この1階で盆踊りのイベントを開催したんです。今は廃れてしまった鹿沼音頭を生演奏で復活させて、地元の民謡の先生も呼び、泊まっていた外国人宿泊客の方に浴衣を着せてあげたりして。地元の人たち以外にも、外国人宿泊客の方にもとても喜んでもらえました。鹿沼音頭しかり、このまちには魅力が詰まっていて、私たちは表現を通してそれを掘り起こしている感じです。それに快く協力してくれる人がたくさんいたし、おもしろいことを思いついたらやれる場所なんです」と、センター長の河野さん。
「自分たちがおもしろいと思うことをまちを巻き込んでやりたいですね。私たちの視点でおもしろいことを発見・発信することを続けたい。それで結果的にまちが楽しくなっていけたらいいなと思っているし、そうなる予感は来た時から感じていたので」と、この地のポテンシャルを感じていると話す2人。宿泊だけでなく、さまざまなアートに触れることのできる「Center」は、国籍問わず誰もが楽しめるスタイリッシュな空間です。
「inahoものがたり図書館」実用書は置かず“物語”にこだわった無料図書館
前出の「Center」のすぐ隣にあるのが「inahoものがたり図書館」。入口のガラス窓が大きく、開放的で入りやすい雰囲気の図書館は、今年の9月にオープンしたばかり。館内にはオーナーを務める伊納達也さんご夫妻が集めたという小説の数々が壁一面に並び、ところどころにおすすめの小説がコメントとともにピックアップされています。
伊納さんの本業は映像制作。もともと東京にオフィスを構えていましたが、仕事で鹿沼を何度か訪れるうちにこの地の魅力に惹かれ、4年前に移住。最初の3年はオフィスのみの利用で仕事をしていましたが、2022年隣に「Center」ができ、人とのつながりが増えたこともあり、オフィスの空きスペースを開放的にしたいと考えるように。そこで昔から好きだった本、特に小説が好きだったことから、自身が持っている大量の小説をディスプレイし、図書館として開放することにしたのだそう。
「この図書館の会員になるときに、1冊ご自身の小説を寄贈していただくことになっているんです。私たちが置く本をシェアしたいし、寄贈いただいた方のおすすめも逆にシェアしてもらい、みんなで作る図書館にしたい。そんな思いから寄贈いただいた方のコメントとともに本を紹介しています」と、会員になる条件にも柔和な伊納さんの人柄を感じます。
もうひとつおもしろいのは、ここにはいっさい実用書を置いていないこと。ファンタジーやミステリーなど小説のジャンルはさまざまでも、あくまで「物語のみ」にこだわっている点について尋ねてみると、「最近の本の主流は、“賢くなりたい”とか“役に立つ”といった本ばかりで、本から何かを得ようとしている人も多い気がするんです。もちろんそれはとてもいいことだとは思うんですが、映像作家として僕はこれまでたくさんの物語からインスピレーションを受けてきたし、鹿沼の文化が好きなんです」と話す。
「祭りとかアートが好きな人が多いし、長く残る文化を大切にしていきたい。“役に立つ”“立たない”といったことではなく、人々の心を潤わせたり、イマジネーションを広げてくれるような本を置いていきたいので、今後は子ども用の絵本なんかも置きたいと考えています」というようなことも話してくれた 。
実は伊納さん、ボードゲームのコレクターでもあり、館内の一角にはこれまで集めてきたボードゲームのコレクションが。
「去年、この図書館の前でまちの人たちとボードゲームをしたんです。そしたら通りを歩いている人 が興味を示して急に参加してくれて。意外といたんですよ、ボードゲームが好きな人。このまちには飲食店や宿泊施設は他にあるので、僕はこのまちの“遊び”を担当していけたらなと思っています」と楽しそうに話す姿が印象的でした。
ふらりと入ってまだ自分の知らない物語に出会う。そんな他とはひと味違ったまち散策を楽しめるのも、鹿沼の魅力です。
「月とスパイス」心と体を癒す絶品ヘルシーカレー
銀座通りの隣、「末広町通り」にある本格インド薬膳カレー店の「月とスパイス」。店内に入ると、食欲をそそる奥深いカレースパイスの香りが出迎えてくれます。
鮮やかなコバルトブルーの壁に満月の光のような優しい照明、そして木の風合いを生かしたナチュラルでセンスを感じるインテリア。もとは築100年の長屋だったのをオーナーの上杉龍矢さん自らが、いちからリノベーションして作り上げました。
もともとは理学療法士だった上杉さん。カレーとの出会いはかつて旅した南インドで、旅行中体調を崩した時に地元の人が作ってくれた一杯のカレー。野菜やスパイスをふんだんに使ったその薬膳カレーに心も体も回復していくのを感じ、食事の持つ力に衝撃を受けたと言います。
帰国後、試行錯誤をしながらカレー作りを始めるように。最初は趣味で作って周りにふるまっていたところ、自身の作ったカレーで気持ちが明るくなった、体の不調がよくなったという声をもらうようになり、人々の心と体が元気になれる場所を作りたいと鹿沼でカレー店を開くことを決意。お客様だけでなく、店で働く人にも拠り所となれるようにと店舗を就労継続支援A型事業所にして展開しています。
「旅が好きで根無し草の自分がここでお店を4年も続けていられるのは、この場所が居心地いいからでしょうね。鹿沼は川も山もきれいだし、都心部へのアクセスもいい。まちのサイズ感も人との距離感もちょうどいいので、のびのびと過ごすことができている気がします」と笑顔で話す上杉さん。
これまでもインドに何度も足を運んでカレー作りを勉強したという努力のかいもあって、「月とスパイス」のカレーを食べたいと、わざわざ東京から食べに来てくれるお客様もいるほどの人気店になっている。
今後の展望については「お店の近くで畑を借り、そこで野菜を育て、その野菜を使ってカレー作りをしたいと考えています。畑も就労支援で使って福祉の力になれたら」と力強く答えてくれました。
南インドカレーを提供しているお店はそう多くはないため、「月とスパイス」のカレーをぜひ楽しんでみてください。
「kanuma commons」鹿沼のまちと人をつなぐ新たなコミュニティスペース
2021年12月、鹿沼市とUR都市機構は持続可能なまちづくりに関する連携協定を締結。この連携協定のスタートアップとして、まちづくりに参加する人たちのコミュニティスペース「kanuma commons(カヌマ コモンズ)」を2022年9月17日にオープンしました。
場所は、銀座通りに面する古くからある元呉服店「板屋ビルヂング」。ここをリノベーションし、1階には飲食や物販をスモールスタートできるようにシェアキッチンと3つの販売ブースを設置。2階は、「kanuma commons」の会員になった人たちが利用できる共有ラウンジスペースに。簡易キッチンの他、大型ディスプレイやスピーカーなども備え、オンラインも含めた講談イベントや、会員さんのやりたい各種イベントが開催できる開放的な空間に。楽しい会話から鹿沼でやってみたいことのアイデアがどんどん生まれそうです。
こうして新しいことにチャレンジしてみようと思う人がますます増えていくように、UR都市機構はこれからも鹿沼のまちづくりを応援していきます。