若手がつなぐ、地域コミュニティの団結。「ABC-Project」と「DANCHI Caravan」紹介編:(第3回)「#街ものがたり」
UR都市機構(以下UR)には、若手職員が担当業務のかたわら、自発的に挑戦し経験を積むための課外活動があります。名前は「ABC-Project」(以下ABC)」。同プロジェクトではこれまで、東京都町田市で「DANCHI Caravan in 町田山崎〜つながる防災祭〜(以下DANCHI Caravan)」と題した防災イベントを開催してきました。居住者や地域はもちろん、公的機関、民間企業、教育機関とも連携。年々その規模は大きくなり、今ではすっかり地域イベントとして定着しています。
若手が活躍する場と防災への意識を高めるコミュニティづくり
「ABC-Project」は、「Across Boundaries Challenge Project(境界を超えるプロジェクト)」の略。初回開催の2014年度(2015年3月)当時、有志職員による「若手職員の自由な発想を活かせるプロジェクトを実現させたい」という思いから「若手チャレンジプロジェクト」が立ち上がり、のちに名称を変えて現在に至ります。若手職員を中心としたメンバーで構成される、機構公認の課外活動です。
発足時から精力的に活動し、これまで「働く女性の住まいの提案や商品化」「団地集会所のDIY改修とお披露目イベント」「東北震災復興支援本部との共同プロジェクト」など多くのプロジェクトを実現してきました。
そのひとつである「DANCHI Caravan in 町田山崎〜つながる防災祭〜」は、2014年から東京・町田市の町田山崎団地で開催されているイベントです。メインテーマは『防災』。「もしも」のときを想定し、食べて、動いて、楽しく学べる地域参加型のイベントとして、老若男女の来場者に、防災を身近に感じてもらうことを目指しています。また、気軽に集いお互いを知る場を提供することで、地域のコミュニティづくりを促すことも目的の一つです。
2014年度の第1回から、「無印良品」を展開する株式会社良品計画が企画・運営として参加。URと良品計画でミーティングを設けながら、年ごとのテーマを決めたり、イベントでのコミュニティ形成に必要なこと、プログラムのブラッシュアップなどをディスカッションしています。
「DANCHI Caravan」は年々規模が大きくなり、会場や来場者数も拡大するなか、今年度は令和7年3月上旬に開催予定です。
▼あわせて読みたい
今年10年目を迎えた「ABC」と「DANCHI Caravan」について、UR公式 noteでは今年度のイベント情報や現場の様子、そして職員の想いを、「紹介編」・「準備編」・「本番編」と3回にわたって取りあげます。
第1回目の「紹介編」は、プロジェクトやイベントへの取り組み、また未来につなげる思いを事務局や運営班のUR職員に聞きます。
さまざまな境界を超えたURの若手プロジェクトとは?
―今年で10年目を迎えるURの若手職員プロジェクト「ABC」と、「DANCHI Caravan」でのみなさんの役割について聞かせてください。
井尻:私は、令和6年度ABC事務局のメンバーで、「DANCHI Caravan」統括班(リーダー)を任されています。令和5年度も参加して、今年で2回目となります。
望月:私も同じく事務局メンバーで統括班(リーダー)を務めていて、令和5年度も参加しています。
土屋:私は入社1年目となりますので、ABCは初参加です。「DANCHI Caravan」では、企業対応やイベントのマニュアル作成などを担う運営班に所属しています。まだまだわからないことが多いのですが、先輩方に教えてもらいながら参加しています。
―みなさんがABCに参加したきっかけや、今までの活動の感想を聞かせてください。また、ABCに参加することで得た変化や成長などを教えてください。
土屋:業務で担当する町田山崎団地で「DANCHI Caravan」が開催されることが一番の理由です。担当団地とはいえ、居住者とお話する機会はそれほど多くありません。イベントをきっかけに、居住者や地域の方とコミュニケーションをとりたいと考えています。ABCの印象は、活気があって会議での発言もしやすい。若手職員だけなので、気兼ねなく発言できるのがうれしいです。
望月:私は、経理課に所属しています。普段は社外の人とプロジェクトを進めることがなく、そのような経験を積むために参加しました。しかし、昨年はプロジェクトの進行についていくだけで精一杯でした。私たちの手掛けた企画に、地域の大人や子どもが楽しそうに参加する姿を見て、ものすごく感動しました。その感動が忘れられないのと(笑)、昨年十分出来なかったことに挑みたいと思い、今年度も参加を決めました。ABCから得たことは、自ら行動を起こせるようになったこと。他部署や年次が上の世代への問い合わせや打ち合わせも、今では積極的に進めていけるようになりました。経理の先輩から「いい意味で変わったね」と言われます。
井尻:私の主業務は、建築物などの工事発注業務です。しかし、学生時代からイベントや空間づくりには興味や関心がありました。ABCでは、業務とは異なる経験を積めることや、居住者とコミュニケーションができることが魅力で参加しました。昨年は1年目で余裕がなく反省すべき点も多かったのですが、今年度は運営の中心としてABCを牽引したいと思い、再び手を挙げました。ABCに参加してよかったことは、さまざまな民間企業の方と出会えたことです。仕事へのスピード感や発想力の豊かさなど見習うべき点が多く、私自身も殻を破って挑戦しようという気持ちになります。
居住者の想いや視点をとらえた防災イベントへ
―「DANCHI Caravan」の運営において、地域住民とコミュニケーションするうえで意識していることはありますか?また地域住民同士のコミュニティ形成については、どのように考えていますか?
井尻:10年続けている「DANCHI Caravan」とはいえ、もっと長く暮らしている方々の空間で行うイベントです。そのため、毎年のことと思わずに、住んでいるみなさんの想いや視点などを運営側がしっかりと理解することが大事だと思っています。できるだけ多くの方々の意見などをお聞きして、少しでも反映できるように意識をしていますね。
望月:主催者の自治会や地域の名店街のほかにも、地域のひとに関わっていただくことも増えてきました。自主的な交流イベントなども開催されているようです。団地内のつながりはもちろん、団地と地域の結びつきを強くする機会にもなれば良いです。結びつきを強くする企画なども提案できればと思っています。
―先ほどまで「DANCHI Caravan」の会議が行われていました。長年、企画や運営に携わっている良品計画さんとの会議では、今年度のテーマが決まりましたが、会議の感想やそのテーマについて聞かせてください。
井尻:メンバーが考えていたテーマ案をもとに、良品計画さんと会議を行いました。いろいろな発言や提案があったなかでテーマは、『わたしの備え、もしものために』に決定しました。災害を自分ごととして捉えようという思いがテーマのベースになっています。
土屋:テーマひとつとっても、話し合ってみんなで決めていくという過程が大事だと感じました。会議では発言を促されるので、いろいろと思ったことを伝えることができました。決定したテーマにあるように、地域や住民の防災への意識や課題を知りたいと思っています。
―今年度は、井尻さんや望月さんは挑戦したい企画があるとのことですが、どのようなものでしょうか? また土屋さんは1年目としてどのような挑戦をしたいですか?
井尻:テーマにもあるように、「もしもの備え」についての企画を手がけたいです。ひとり暮らし、夫婦暮らし、4人家族暮らし、または団地1棟分のような例をあげての「必要な備え(内容や数量)」をひと目で分かるような展示を行いたいです。「うちの備えは少ない」「うちはコレが足りてない」みたいなことがパッと見て直感的に分かるようなものにしたい、と考案中です。
望月:10年という節目の年でもあるので、これからの10年も町田山崎団地で使えるようなものを創りたいです。例えば、現状のハザードマップの見直しや更新、自治会の所有する防災アイテムの使い方マニュアルなど“もしものとき”に役立つものを手がけたいです。それをまた10年後にABCの後輩が更新してくれたらいいなと思います。昨年の「DANCHI Caravan」では、多くの来場者から「イベントで使った防災グッズを買いたい」との要望がありました。そこで今年度はグッズやアイテムを販売することも検討しています。
土屋:運営班で担当しているマニュアルづくりなどを通して、より深く団地のことや「DANCHI Caravan」を理解できるようになりたいです。そして住民のみなさんと積極的に会話をしていきたいです。イベントでは防災を糸口にして、日々暮らす団地に感じていることなどを聞かせていただき、それをABCでの活動や自分の業務へとつなげていきたいです。
URの強みは「ソフト、ハード両面で防災対策に取り組めること」
―多くの人が暮らす団地は、ひとつのまちでもあります。まちづくりにおいて防災対策に重要なこと、そしてURだから果たせる役割をどのように感じていますか?
井尻:大学院で都市計画史を学んだこともあって、まちづくりにおいて防災対策を考える上で土地の背景や地域の歴史を知ることは重要だと感じています。火災、水害、地震などの災害状況に応じた安全な避難場所は、そこからわかることが多い。もちろんひとつのまちである団地も同じです。歴史背景を含めて居住者や地域のひとへ防災を伝えることができるのは、土地開発から関わっているURの持ち味だと実感しています。
望月:URは全国に約70万戸の賃貸物件を運営している「日本最大の大家」であり、地域に開かれた広大な屋外空間もあります。URができる防災対策として、「DANCHI Caravan」などのイベントを通じて、災害時に活かせるコミュニティづくりをサポートすること。また普段は遊び場や通り道である屋外空間は、もしものときに地域を守る避難空間にもなります。ソフト、ハード両面で防災対策に取り組めるのがURの強みだと思います。
土屋:URのまちづくりは、決して利益ばかりを追求するのではなく、居住者の想いもできるかぎり大事にしながら方向性を決めてきたものです。居住空間である団地を活用して、居住者はもちろん地域のひとにも役立つ「DANCHI Caravan」のような防災イベントは、そういうまちづくりをしてきたURだからこそ果たせる役割だと感じます。
―10年という節目の年を迎える、今年度の「DANCHI Caravan」に向けての抱負をお願いします。
井尻:多くの人に足を運んでもらい、防災についての備えをひとつでもやってみようと思ってもらえるイベントにしたいです。節目の10年目としては、先輩から渡されたバトンをつなぐ思いで走っていきたいと思います。
望月:今年度の「DANCHI Caravan」のリーダーとしては、特に1年目のメンバーがこれからの仕事において何かの糧になるようなイベントを創っていきたいです。10年間つないできたことを絶やすことなく、次の10年を見据えるスタートを感じてもらえるイベントにしたいと考えています。
土屋:参加するひとが楽しみながら防災対策につながるようなイベントにしていきたいです。また地域にとって必要とされているイベントだからこそ10年続いてきていると思いますので、今年も次へとつながる内容を提案していきます。
井尻さん、望月さん、土屋さん、ありがとうございました。令和7年3月に開催される「DANCHI Caravan」へと奮闘する「ABC-Project」を追いかけていきます。今後公開される、「準備編」「本番編」もお楽しみに。