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自分たちの欲しいものは自分たちの手で―団地商店街から広がるまちづくり:(第9回)「#Interviews まちづくりってどんな人が携わる?」

埼玉県の中央部に位置し、東京都心からは電車で約1時間程度のところにある埼玉県北本市。北本市は、都心へのアクセスが良好でありながら、ホタルが生息する北本自然観察公園があったり、国の史跡化を目指している縄文時代のデーノタメ遺跡があったり、雑木林が保存されていたりと、緑あふれる自然環境の豊かさが魅力です。


MUJI×URで全国初となる店舗付き住宅を展開

「MUJI × UR団地リノベーションプロジェクト」が行われる北本団地

そのデーノタメ遺跡の近くに、2,089戸からなる大きな団地「北本団地」があります。1971年に建てられた北本団地ですが、建築から50年以上が経過。団地を活性化させ、地域を盛り上げていきたいという思いから、北本市とわたしたちUR都市機構(以下UR)は、2020年3月にまちづくりに関する連携協定を締結。活性化プロジェクトとして団地商店街の活性化にも取組み、北本市と北本を拠点にするまちづくり会社「暮らしの編集室」と連携したコミュニティ施設を開設するにあたり、MUJI HOUSEさんとも連携し、店舗付き住宅の2階住宅部分をMUJI×URにリノベーションしました。北本市は市民提案型のふるさと納税型クラウドファンディングによって、北本団地から地域の活性化を目指す人たちの活動を支援してくれています。

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現在では、シェアキッチン兼ジャズ喫茶「中庭」を営む落合康介さん夫妻がここに住んでいます。この「中庭」ができてから、老若男女幅広い世代の人がここに集まるようになり、落合さんのように北本団地商店街で店舗や事業を営みたいという人が増加。少しずつ団地に賑わいの兆しが見え始めてきました。
 
今回は、この北本団地の商店街で事業をスタートさせた方とこれからスタート予定の方たち4人に、ここで事業を始めようと思ったきっかけや、団地の魅力についてお話を聞きました。

北本団地で「繋がる」コミュニティ

左から、宇部さん、青栁さん、落合さん、三神さん

落合康介さん:シェアキッチン&ジャズ喫茶「中庭」を運営
青栁たかよしさん:学童保育施設「うさぎっこはうす」を運営
宇部光太さん:2024年春、ネイリストやエステティシャンや美容師などを目指す人に向けた教室兼サロンをオープン予定
三神裕香さん:2023年12月中旬、ダンススタジオ「KILIG DANCE SCHOOL」をオープン

※以下敬称略
―みなさんのお仕事と、北本団地で事業を始めようと思った理由を教えてください。

ミュージシャンとしても活動し、シェアキッチン&ジャズ喫茶「中庭」を運営する落合さん

落合:もともとMUJI×URの店舗付き住宅と北本団地活性化プロジェクトに関わっている「暮らしの編集室」というまちづくりのチームの人たちと友達で、彼らからここで一緒にまちづくりの活動をしないかと誘われたのがきっかけでした。僕の本業はジャズミュージシャンですが、ちょうどコロナ禍のときにお声がけいただいて西荻窪から引っ越してきたので、「中庭」をオープンして2年半くらいになります。

たくさんのレコードが並ぶ、「中庭」の店内の様子

「中庭」では音楽ライブのほかにも日にちを決めてタップダンス教室をやったり、平日学校に行けない子どもたちの居場所として開いたりもしているので、大人も子どもも幅広い人たちが来てくれています。

音楽繋がりで落合さんのファンでもあったという、学童保育施設「うさぎっこはうす」を
運営する青栁さん

青栁:僕は北本市には20年くらい住んでいて、ここで「うさぎっこはうす」をオープンする前からプログラミングの仕事と兼業で公設の学童を運営する「NPO法人うさぎっ子クラブ」の理事長をやっています。自分も働いて子どもを学童に預ける親の一人でもありますが、学童って今どこも働く親が多いので、パンク状態です。であれば、自分たちで学童を作ろうということで子どもを持つ親たちで作り上げたのが「うさぎっこはうす」なんです。

北本団地「中庭」2周年イベントで、“ピザファンディング”を実施した「うさぎっこはうす」

場所をこの団地にした理由は、もともと自分もアマチュアで音楽をやっていて、落合さんのファンでした。「中庭」によく行くうちに落合さんと親しくなり、学童の場所を探していると言ったら落合さんにこの場所を勧められて。公設学童ではないのでプログラミングや美術などで差別化を図り、夏休みに学童を試行しました。現在は月2回「子ども食堂」を開き、今後も子どもの居場所として使っていくよう検討しています。

北本団地では、これからネイリストやエステティシャン、美容師などを目指す人に向けた
教室兼サロンをオープンする予定の宇部さん

宇部:僕は北本市内で美容室やネイル、エステなどのサロンを3店舗経営しています。サロンワークをしているとそればかりになってしまい、人材の育成がしっかりできないのが悩みとしてあって。そこで、美容の技術を勉強したばかりの人が働きながら実技を通して技術を磨ける場所を作りたいと思っていました。そんな時に知り合いだった青栁さんから紹介してもらってこの団地で開業することを決めました。
 
今のサロンだと30代~50代の女性、20代~30代の男性がお客様として来てくれていますが、今後は団地の特性を生かしてご高齢の方も気軽に来てもらえるようになったらいいなと思っています。

ダンススタジオ「KILIG DANCE SCHOOL」をオープンしたばかりの三神さん

三神:私はもともと埼玉県の鴻巣市と北本市の公民館でダンススクールを運営していて、今120人くらいの子どもたちがレッスンを受けに来てくれています。コロナ禍を経てダンススクールだけでなく、広く子どもと大人両方に向けた居場所を作りたいという思いから物件探しを始めました。
 
宇部は私の義理の兄で、最初は彼の新しいサロンに間借りしてダンス教室を開こうと思っていたのですが、美容のサービスと同じ場所でダンス教室を開くのはさすがに難しいと思い、義兄とは別に物件を探し始めました。そして、以前から「中庭」の存在を知っていたこともあり、青栁さんや落合さんたちのいるこの団地で私もダンススクールを開きたいと思い、決めました。

新しくできたダンススタジオで踊る子どもたち

―北本団地に来てよかったと思うことは何ですか?

落合:こうやって仲間ができていく喜びや、団地の人たちと繋がり、自発的に楽しんでまちづくりやイベントが生まれるのが嬉しいですね。団地の人たちにとってもスーパーや銀行、病院だけでなく、まちの活気づくコンテンツが増えると感じてもらえれば活性化に寄与できるように思いますので、それもうれしく思っています。
 
青栁:僕はずっと落合さんのファンだったので、憧れのアイドルが近所に引っ越してきた感覚でうれしかったし、繋がれてよかったです(笑)。それはさておき、やはり子どもたちや地域の人たちと繋がれるのはうれしいですよね。夏に学童を開いた時、子どもがたくさんいるから団地の高齢者の方々が興味を持って見に来てくれました。なかには、差し入れをくださる方もいて。高齢者の方々は子どもたちとの繋がりを求めているし、子どもたちは核家族が多いので高齢者の方々とも仲良くなれる。そんないい循環が生まれました。

あとは、「子ども食堂」を開いていると、子どもも親もそれなりに悩みを抱えているのが分かります。悩みをなかなか打ち明けられないけど、「子ども食堂」に何度か来るようになって人間関係が築けるようになると、話し相手がいる安心感から悩みを打ち明けてくれるのです。それに対して話を聞いてあげることで笑顔を見せてくれた時は、開いてよかったなと思えたし、一人で抱え込まずにみんなでサポートできる体制をこれからも整えていきたいなと思っています。
 
宇部:僕もこうやってみんなが頑張っているから、頑張ろうと思えます。働く親たちって子どもを預ける先がないから働けないとか、美容室に行きたいけど子どもを預ける場所がないとかで悩んでいる人が意外と多い。病院とかスーパーとかと同じように、生活に必要なサービスとして僕たちの事業がこのエリアの人たちに役立てたらいいなと思っています。
 
―みなさんにとって北本団地の魅力は?

落合:人との距離がすごく近いことですね。東京だと隣に住んでいる人すらどんな人か分からないけれど、ここだと自然といろんな人とのコミュニケーションが生まれます。幅広い世代の人たちと出会えるので、ジャズに歌謡曲、演歌までみんなが知っている情報をシェアし合うような環境。だから僕も、コミュニケーション能力をもっと磨こうとも思えますしね。いい刺激になります。

「中庭」の2周年記念演奏会では、多世代バンドがパフォーマンスを披露

この前は、「出張中庭」という形で同じ埼玉県の三郷市にある「URみさと団地」に行ってジャズコンサートをやったら、平日の昼間なのに100人以上のお客さんが来てくれました。そのライブを北本団地とリモートでつないで同時配信し、団地同士が繋がれるおもしろい企画になりました。そんなユニークな繋がり方は東京ではなかなか叶わないことだったので、すごくいい経験になりました。

みさと団地の集会所で行われたジャズライブの様子

青栁:僕は、北本団地商店街にアーケードがあるのが魅力だと思っています。先日フードや生活雑貨店など20店舗以上が集まる「イエローマーケット」というマルシェ型のイベントが開催されましたが、あいにく当日は雨でした。でもアーケードがあるおかげで雨を気にせずイベントが開催でき、300人以上の人が来てくれました。学童を開いている時も雨に濡れずに親たちが子どもを迎えに来ることができるので、いいなと思っています。

北本団地商店街のアーケード街の様子

宇部:そうそう、この間も北本団地でお祭りがあった時もすごく盛り上がっていましたよね。おしゃれなキッチンカーとかもあって。もっと多くの人に知ってもらえたら、さらに多くの人が来てくれるようなポテンシャルを感じました。
 
三神:私も同感です。お祭りでダンススクールの子どもたちがいきいきと踊っているのが嬉しかったです。今後もそういうイベントでダンスの発表会がしたいですね。ぜひ落合さんのジャズバンドとコラボしたいです。

落合:それいいですね! ジャズバンドもダンスも即興のフリースタイルでやるとか。

三神:すてき! やりましょう!

―北本団地は今後、どのようになってほしいですか?

北本団地の魅力や今後について、お互いの意見を交わす4人

青栁:千葉県の流山市のようになったらいいなと思っています。流山市は今若い人も含め人口がすごく増えているんですよ。まちづくりや子育て支援にも力を入れているようですしね。北本団地でいうと住戸はもうすでにたくさんあるので、この団地や商店街のよさをもっとアピールして、子育て世代の人たちに対するサービスをさらに充実していったらいいのではないかと思います。

三神:北本団地でのイベントをもっとアピールしたいですね。ここでクリスマスマーケットもやりました。私たちは、スタジオで温かい飲み物を提供して音楽を聴いたりする空間として参加しました。

落合:確かに、魅力をもっと宣伝したいですね。最近「団地がエモい」なんて言われて、若い人の入居率も増えているようですし。僕たちもいろいろイベントを仕掛けて、いいアピールができたらと思っています。

みなさん、本日はお話を聞かせていただきありがとうございました! URはこれからもまちの活性化に向けてさまざまなサポートをしていきたいと思います。

取材・執筆:日暮まり
写真:近藤俊哉
編集:福津くるみ